抄録
水素あるいは重水素存在下でイソブテンの高温熱分解反応の研究を行った。常圧石英流通反応容器を用い, 反応温度は948~1,023K, 滞留時間は1.0~4.5秒, 水素 (または重水素)/イソブテン=約10という条件で行った。主生成物は, メタン, エチレン, プロピレンであった。実験結果は Tables 1, 2に示した。生成物の分析はガスクロで, 生成物中の重水素分布はガスクロ-マスで測定した。イソブテンの消失速度式は, イソブテンに1次, 水素又は重水素に0.5次であつた。得られた総括反応速度定数は,
(kobs.)H2=1013.6±0.4exp(-62,000±4,000/RT)
(kobs.)D2=1015.1±0.5exp(-72,000±4,000/RT)
l1/2/mol1/2•Sec-1
Fig. 1では, メタンd0の生成が注目すべきことで, これは, •CH3+i-C4H8→CH4+i-C4H7•の反応の寄与を示している。Fig. 2では, 反応初期にプロピレンd0がプロピレンd1より多く生成していることがわかる。Figs. 2, 3から, イソブテンの重水素化 (末端付加) 速度が脱メチル (中心付加) 速度よりずっと速いことがわかる。•CH3+D2→CH3D+D•とi-C4H7•+D2→i-C4H7D+D•の反応によつて生じたD•の大部分は, D•+i-C4H8→i-C4H7D+H•によってH•に変換され, このためH•+i-C4H8→C3H6+•CH3により, プロピレンd0が反応初期に生成すると考えられる。反応が進行してd1体の割合が増すのは, i-C4H7D+H•→C3H5D+•CH3の寄与が増大するためと考えられる。以上の考察をまとめると,
i-C4H8→i-C4H7•+H•
i-C4H7•+H•→i-C4H8
i-C4H7•+D•→i-C4H7D
H•+i-C4H8→H2+i-C4H7•
D•+i-C4H8→HD+i-C4H7•
i-C4H7•+D2→i-C4H7D+D•
H•+i-C4H8→C3H6+•CH3
D•+i-C4H8→C3H5D+•CH3
D•+i-C4H8→i-C4H7D+H•
•CH3+D2→CH3D+D•
•CH3+i-C4H8→CH4+i-C4H7•
H•+D2→HD+D•
同位体効果の大部分は, 2-メチルアリルラジカルによって切断をうけるH-H, D-D結合のゼロ点エネルギーの差によるものと考えられる。2-メチルアリルラジカルは, アリルラジカルよりさらに反応性が低いことから, 同位体効果はプロピレン2)の時よりさらに大きくなることが期待され, 実験的に支持された。
RRKMによるホットラジカルの分解速度定数の計算結果をTable 3に示した。計算では, 脱メチル反応速度は, 重水素化反応速度よりずっと速い。しかし, 実験結果では, 脱メチル反応の方が重水素化反応よりはるかに遅い。このことは, 脱メチルまたは重水素化反応の速度が, 水素原子の中心又は末端付加の速度によって決まることを示唆している。以上の結果はすべて, 遊離基連鎖反応機構の正当性を支持している。