石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
夕張炭の解重合反応と抽出物の水素化分解におよぼす含ZnCl2溶融塩の触媒作用
野村 正勝一角 泰彦中辻 洋司吉川 彰一
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 26 巻 4 号 p. 303-308

詳細
抄録

夕張炭の可溶化反応をテトラリン存在下400°C, 水素初期圧80kg/cm2, 反応時間30分および3時間で行った。抽出物の調製方法はFig. 1に示し, Table 1にはおのおの抽出物の元素分析値, 構造パラメーター, H/C比, 平均分子量値を掲げた。反応時間を30分から3時間に延長した場合の効果をみると平均分子量値にほとんど変化がなく, 酸素含量の低下とH/C比の増大がみられた。このことから水素化分解と脱酸素反応が進行していると考えられる。溶剤分別の結果 (Table 2) から時間が経つとBSやPSが増加することがわかる。電算機を利用した各抽出物の平均構造 (Fig. 2) をみると, 構造a (3時間) とb (30分) の比較から脂環部分の開裂によるアルキル基の増加が推測される。長時間反応の石炭可溶化への影響を, a'とb'の比較から脂環部分が水素化分解をうけ, イソプロピル基等で置き変わるというイメージでとらえられる様に思われる。反応時間30分の抽出物を対象にZnCl2およびZnCl2-CuCl溶融塩を触媒に水素化分解を行った結果を Table 3に示した。結果は以下の様にまとめられる。1) 多量の塩の使用はガス状生成物とPSLを増加させる。2) 10wt%の塩の使用はPS分を増加させる。3) ZnCl2-CuClはZnCl2に比べフェナンスレンの水素化分解に著しく高い活性を示したにもかかわらず, 石炭抽出物では両者に活性の差が余りみられない。抽出物に存在するフェノール性OHが芳香族環の水素化分解に対する活性を高めたためと考えられる。
PSHとBSの分析結果 (Table 4) から10wt%の塩は窒素%を著しく低下させ, 等量の塩を使用すると窒素は完全に除去される。PSHとBSをカラムクロマトグラフで分別した結果 (Table 5) からZnCl2-CuCl塩はZnCl2塩に比べ, ヘテロ原子の除去に極めて優れていることがわかる。Nを含むモデル化合物としてキノリンおよびγ-ピコリンとZnCl2のコンプレックス (2:1) を合成, 前者の水素化分解を行った (Table 6)。液体生成物にはGC-MSから窒素を含む化合物が認められず, コンプレックスの水素化分解による生成物分布は等量のZnCl2存在下での結果とよく類似しており, 特に Run 8の生成物分布はRun 6とほぼ一致することから窒素化合物はZnCl2とコンプレックスをつくり分解してゆくと考えられる。抽出物の塩基成分をZnCl2で処理したものの遠赤外スペクトル (Fig. 3) からZn-N伸縮が強度は弱いが180-220cm-1にみられ, 上記の推論を裏づける結果をえることができた。

著者関連情報
© 公益社団法人石油学会
前の記事 次の記事
feedback
Top