石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
パラフィン系変圧器油中のパラフィンワックスの熱量測定
安福 幸雄
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1984 年 27 巻 6 号 p. 525-532

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抄録

-50°Cから-60°Cの温度範囲で, 深冷脱ろうされたパラフィン系変圧器油から析出されるパラフィンワックス量を見積るために, 尿素アダクト法によって油よりパラフィンワックスを分離した後, 油, パラフィンワックスおよび油残部について流動点を測定するとともに, 示差走査熱量測定 (DSC) による熱量測定も行った。油残部に人工的に本パラフィンワックスを溶解せしめた試料油についても同様に測定した。更に, 本パラフィンワックスをガスクロマトグラフ (GC) 等を用いて分析し, そのノルマルパラフィン含有量を測定した。
尿素アダクト法によって分離されたパラフィンワックスのノルマルパラフィン含有量は42%で, 平均カーボン数は17であった。(Table 2) 深冷脱ろうパラフィン系変圧器油のDSCのデータより, その融解熱は0.7cal/gのように小さい値が得られた。(Fig. 2) 油残部に溶解したパラフィンワックスの量が多い程, 冷却および加熱条件でのDSCカーブにおける結晶化および融解による熱量変化が著しい。(Figs. 3, 4) パラフィンワックスの融解熱は33.1cal/gであって, 文献値3)とほぼ一致した。(Fig. 6) パラフィンワックスの添加によって, 流動点の上昇やDSC結晶化ピーク温度の上昇が明らかに認められた。(Table 3) なお化学的に純粋なノルマルドデカンの融解熱を本方法で正確に測定して50.9cal/gが得られ, 文献値9)とよく一致したことにより本DSC測定技術の高い水準が確認された。(Fig. 9)
パラフィンワックスの相転移については, C12H26からC20H42のノルマルパラフィンの融解熱が50から60cal/gと実測されているのに, イソパラフィンのそれは全く測定されていないために, 任意のパラフィンワックスの融解熱を無条件には定義することはできないので, パラフィンワックスを分離してその融解熱を測定することによってのみパラフィン油中のパラフィンワックスの挙動を解析することができた。(Table 4)
パラフィン油中のパラフィンワックス量については, 深冷脱ろうされた変圧器油のパラフィンワックス量は2.1%と概算され, 実測されたパラフィンワックスの収率とほぼ一致した。このようにDSCデータより求めたパラフィンワックス量は実際に添加したパラフィンワックス量と近似的に合うと見なされた。(Table 3) かくして, 流動点とDSC結晶化ピーク温度の相関が得られた。(Fig. 11) また流動点と融解熱の相関も得られた。(Fig. 12) 更に, パラフィンワックス含有量と融解熱の直線関係も得られた。(Fig. 13)
上記のように, パラフィン系変圧器油中のパラフィンワックス量をその融解熱を用いておおよそ見積ることができ, パラフィン系油の流動点はDSC結晶化ピーク温度や融解熱にそれぞれ関係づけることが可能であることが明らかにされた。今までパラフィン系変圧器油の低温特性はただ流動点とか低温粘度特性などで表されていたが, このようなDSC法を適用することによって, より科学的にその低温特性を表すこと, 例えばパラフィンワックス含有量を概算することなどができるようになって, このような方法をより広く適用することが示唆された。

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