環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
論文
自然環境をめぐる問題の位相――栃木県市貝町多田羅沼を事例として――
荒川 康
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2004 年 10 巻 p. 75-88

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抄録

本稿は,自然環境の問題圏をめぐる政策プロセスをガバナンスの視点から考察する。「政府の失敗」が取りだたされる今日,それまでの政府による一元的な政策プロセス管理の限界が指摘されるようになり,多様なアクターの参画による政策形成が,自然環境政策の分野でも試みられはじめている。しかし,必ずしも期待どおりの成果はあがっていない。

本稿では,従来「政府の失敗」としてとらえられてきた事態を,「ガバナンスの失敗」ととらえなおすことを提案している。なかでも,政策プロセスの最初の段階で,行政と地域住民を典型とする異なるアクターが,それぞれ異なる「問題」の位相に立っていることを,具体的な事例のなかから明らかにし,その位相の違いがガバナンスの中身を規定していく点に注目する。考察の結果,行政と比較して地域住民は,その解決を強く志向する「問題」を抱えているが,それは政策プロセスをガバナンスの視角からみたときはじめて見出せるものであった。

これからの環境ガバナンスを考えるとき,そうした問題解決への強い志向性をもつことが,アクター相互の「問題」の位相を越えた実践へと結びついていくと考えられ,ガバナンスの特徴である「問題解決への志向性と実践」「結果重視の効率性・透明性」を活かした「よいガバナンス」に向けての取り組みが継続していくと考えられる。

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© 2004 環境社会学会
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