環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
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巻頭エッセイ
特集 ソーシャル・イノベーションの時代の環境社会学─環境問題の“創造的解決”とは何か
  • 2つの補助線
    大倉 季久
    2023 年29 巻 p. 6-21
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    本特集は,2022年12月に開催された第66回環境社会学会大会のシンポジウム「『ソーシャル・イノベーションの時代』の環境社会学――環境問題の創造的解決とは何か?」をもとにしている。環境社会学では耳慣れないテーマでもあり,それだけに本特集の執筆者でもある当日の報告者にとっても,環境社会学会でそれを報告しなければならないという意味での「緊張」があった。

    とはいえ,環境問題解決は今,「イノベーションの時代」を迎えつつある。この特集では,そうしたイノベーションのなかでも「ソーシャル・イノベーション」と呼ばれる潮流を考察する。ソーシャル・イノベーションは,社会組織の変革や,そこから生まれる活動に焦点を据えたイノベーションである。近年,脱炭素技術の開発が広範,かつ急速に進行しているが,本特集で議論してみたいのは,問題解決をめぐって,これまでそこに関与してこなかった行為者も含め,多様な主体が関与し,新たな問題解決の担い手像を探りながら事業化を進める変革についてである。

    こうした活動が環境問題解決の新たな前線を形成しつつある状況を,どのように理解したらいいのだろうか。ここでは,2つの補助線を引いてこのソーシャル・イノベーションの時代の輪郭を明確にしながら,環境社会学におけるその位置づけについて,見通しを示したい。

  • ステークホルダー志向の企業認証とコミュニティ形成
    古屋 将太
    2023 年29 巻 p. 22-37
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    企業があらゆる側面で高い社会・環境パフォーマンスを求められる状況において,環境社会学はそれをどのように主題化し,分析し,また,実践にかかわっていくことができるのか,再考する必要がある。本稿ではB Corp運動を対象として,ステークホルダー志向の企業を認証するシステムの可能性と課題を探った。B Corp認証は,5つのカテゴリ(ガバナンス,ワーカー,コミュニティ,環境,カスタマー)で企業の社会・環境パフォーマンスを包括的かつ厳格な基準のもとで評価し,認証する。B Corpが形成するコミュニティやパートナーシップは,企業同士の価値観の共有と経済取引を一体的に成立させる行動であり,その集積は広く社会にポジティブな影響を波及させる可能性がある。一方で,グローバル企業の認証取得や認証離脱にかかわる問題など,B Corp運動のスケールアップに伴う課題も浮上している。後発ながら,日本でも戦略的に多様な人びとのかかわりを重視したプロセス設計のもとでキーパーソンのネットワークが形成され,B Corpの理念を体現するコミュニティが形成されはじめている。日本のB Corp運動の研究は黎明期であり,潜在的には多岐にわたる研究課題を設定する余地がある。まずはB Corpを幅広く社会科学の研究対象として主題化することが必要である。

  • 認証制度を基盤にした主体間ネットワーク形成に注目して
    大元 鈴子
    2023 年29 巻 p. 38-52
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    海洋管理協議会による水産物の持続可能性のための認証制度とエコラベル制度が国際的に導入されてから25年が経つ。国際的に取引される資源に対する国際資源管理認証制度は,1993年設立のFSC認証に始まり,1997年には水産物を対象としたMSC認証,そして,2010年の養殖水産物のASC認証へと続く。この間,水産物の国際認証制度は,「創成期」「乱立期・定着期」「業界標準期」を経て,2010年代からは同業者同士による認証取得のための相互サポートのツールとしての側面も持つようになった。つまり,企業や環境NGOにとっての認証制度は「他社との差別化」を目的としたものから「前競争的協働のツール」へと変化してきた。前競争的協働(pre-competitive collaboration)とは,国際的にビジネスを展開する小売り企業や加工会社が共同で出資し,乱立する認証制度のクオリティを審査する団体であるGSSIを設立する動き,あるいは,同魚種を養殖する,時には国をまたぐ複数の水産養殖会社が,餌の開発など,協力して国際認証の取得を目指す動きなどを指す。つまり,差別化のツールであった認証やエコラベルが「業界標準化」されつつあるといえる。本稿では,かつて差別化のツールであった水産認証制度とそのエコラベルが,業界標準化したのちに,国際的な水産資源管理ガバナンスにおいて,どのような役割を担うかについて議論する。

  • 高橋 勅徳
    2023 年29 巻 p. 53-70
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    ソーシャル・イノベーションは,市場のダイナミズムを生み出す企業家精神を利用し,社会問題に対して新たな解決を創造する諸活動として捉えられてきた。経営学における社会企業家研究は,社会企業家が実行する新たな価値を伴う革新の方法に正当性を求めてきた先行研究のイデオロギー性を批判する。そのうえで,ステーク・ホルダーとの関係的実践に倫理の達成を見出そうとする経営倫理研究における実践的転回に基づき,ソーシャル・ビジネスがいかに倫理的なモノとして構築されるのかについて社会企業家の具体的行為に注目するという新たな理論的視座を提示してきた。本稿ではこの新たな理論的視座に基づいて,①社会企業家を分析起点にしつつ,社会企業家がソーシャル・ビジネスを構築していく際に関係を取り結ぶステーク・ホルダーの利害を読み解き,②共通する利害としてソーシャル・ビジネスを構想していくことに注目する。次に,ソーシャル・ビジネスの実現について,共通の利害と化したソーシャル・ビジネスの実現に紐づけられた,社会企業家とステーク・ホルダー間の交渉と応答のプロセスに注目していく必要性を指摘する。そのうえで,東京都多摩地域を中心として,多摩産材を用いた地産地消の高性能住宅の建設・販売事業を目的として活動する,TOKYO WOOD普及協会の事例分析を通じて,社会企業家とステーク・ホルダーそれぞれの利害がソーシャル・イノベーション活動へと昇華されていくのかについて明らかにしていく。

  • 信用の社会的機能を地域に埋め戻す
    大門 信也
    2023 年29 巻 p. 71-86
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    本稿では,東近江三方よし基金を事例として,ローカル・ファイナンスが持続可能な地域社会の発展にいかに寄与するかについて考える。パーソンズとスメルサーによれば,信用現象は経済と政治の交換領域にある。とりわけローカル・ファイナンスを論じることは,信用をつうじてローカル・ガバナンスを論じることにほかならず,環境社会学において重要な研究課題といえる。

    2017年に設立された東近江三方よし基金は,行政とのかかわりが強いものの,一貫して内発的な課題意識のもとで運営されてきた。ソーシャル・インパクト・ボンドや休眠預金等活用事業など,先進的なファイナンスメニューを用意し,独創的な木製つみきの製作会社など将来性のある事業に支援を実行してきた。その意義は,近代化の過程において税金へと集中したお金の流れを変え,隔てつつ結びなおすような信用の社会的機能を地域に埋め戻すことにある。

    今後環境社会学には,こうしたローカル・ファイナンスがもたらす社会的な効果,またその意義や課題を明らかにする作業が求められる。

論文
  • ネパール2015年地震で被災した都市近郊農村を事例として
    伊東 さなえ
    2023 年29 巻 p. 87-103
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    2015年4月25日,ネパールでM7.8の大地震が発生した。地震発生直後から,被災した調査地の人びとはテントの設置や食料の提供,仮設小屋の建設や瓦礫の撤去などを行ってきた。本稿はこの一連の活動を事例とし,災害下のコミュニティ・レジリエンスについて検討する。調査地では震災以前から,近代化と人口の流動化のなかで地理的範疇や人的範疇が曖昧化していた。このことに着目し,調査地のコミュニティが災害に際しレジリエンスを発揮した機序を探求した。調査地の災害対応活動では,村などの地理的な名称だけでなく,国際開発協力プロジェクトのなかで形成された組織などの近代化のなかで新しくつくられた枠組みも,人びとが自分たちのコミュニティを想像する拠点となっていた。いくつもの重なり合う地理的範疇や人的なつながりなどを想像の拠点としながら,曖昧でグローバルに拡散するコミュニティの空間が創造された。災害下におけるコミュニティの空間の想像/創造は,資源が限られるなかで,ある程度の境界をつくり出し,活動範囲を限定するための論理としても機能した。ただし,そこで想像/創造されたコミュニティの範疇は,曖昧で不明瞭なものであったため,レジリエンスを発揮するコミュニティは排他的・固定的なものとしては立ち現われなかった。結果として,調査地におけるコミュニティ・レジリエンスの枠組みは災害に直面した際に多様な人びとを曖昧に包含する余地を残していた。

  • 滋賀県のトチ餅づくりにおける木灰利用を事例に
    八塚 春名, 藤岡 悠一郎
    2023 年29 巻 p. 104-122
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所事故は,広範な被害をもたらし,それは原発周辺地域にとどまらず,モノの流通や消費と関連しながら他地域へと広がっている。本稿では,原発事故による被害の全体像の把握に向けて,地域を越えて派生する被害の一事例として,滋賀県高島市の山村で営まれているトチ餅生産に生じた被害を取り上げ,その実態と被害が生じた機序を明らかにし,その被害過程にどのような特色があるのかを検討することによって,この事例を原発事故の被害の1つとして可視化したい。

    調査をおこなった高島市の朽木地域では,加灰によりトチノミのアクを抜き,モチ米と混ぜてトチ餅をつくっている。アク抜きに不可欠な木灰の大部分は,今日では地域の外部から調達されており,地域を越えた資源利用によってトチ餅づくりが維持されてきた。木灰は一般取引市場で販売されるものではなく,朽木のトチ餅生産者らは独自に見つけた取引先と個別にやりとりをしてきた。しかし2012年,原発事故に由来する草木灰の汚染が明らかになり,林野庁がその利用自粛を要請して以来,東・北日本からの草木灰の供給が停止した。その結果,原発から離れた朽木においても木灰という大事な原料が手に入らなくなったことにより,トチ餅の生産が危ぶまれ,トチ餅をつくってきた人たちの楽しみが失われるという「ふるさと喪失」の被害が生じた。本稿では,この被害は木灰という原料の特性と,木灰の入手経路の特性ゆえに発生したものであることと,プライベートな関係に基づく原料取引ゆえの緩やかなつながりが「被害」を不可視化させてきたことを考察した。

  • 山形県庄内地方の風力発電事業を事例に
    平 春来里
    2023 年29 巻 p. 123-137
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    近年,全国各地で風力発電の事業計画が自治体や住民からの反対を受けて撤回される事例が増加している。エネルギー転換が急務となる一方で,その移行を公正に進めるためには「なぜ論争が繰り返されるのか」という分析が必要だろう。また,再生可能エネルギーのリスクガバナンスに関する研究が蓄積される一方で,論争が生じる過程を分析しなければ,その実践を阻害してしまう可能性がある。本稿は,風力発電をめぐり環境論争が繰り返されている山形県の事例を対象とする。

    山形県は,2012年に「卒原発」社会を目指すという指針を示し,再生可能エネルギーの県内の発電ポテンシャルの調査結果を公表した。しかし,風力発電所建設の候補地の1つである庄内海浜県立自然公園内で計画された山形県企業局と酒田市による事業に対して論争が起きた。

    本稿はリスクガバナンスの視点から関係主体の語りを分析した。その結果,論争的な風力発電事業における各主体の問題関心,問題の切り取り方は過去の論争に紐づいており,「卒原発」というフレーミングや再生可能エネルギーの適地可能性調査に基づくゾーニングだけではその膠着状態を変容させるには至らなかったことがわかった。一方で,各主体の利害関心を「ときほぐす」ことによって海岸林に関して関心が重なっていることがわかり,ここに問題設定をずらすことによって,ガバナンスの結節点を新たに設定できる可能性を示した。

  • 斜里町・しれとこ100平方メートル運動の事例から
    船木 大資
    2023 年29 巻 p. 138-153
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2026/08/07
    ジャーナル フリー

    これまでの自然保護地域についての先行研究では,「原生自然」を価値の中核とした保護地域への指定や保護施策は地域の人びとに受苦をもたらし,またローカルな価値や歴史を不可視化させることが強調されてきた。一方文化遺産の社会学的研究では,遺産のプロセスは複雑な関係のもとで絶えず更新・再構成されていくものであることが指摘されている。本稿では世界自然遺産地域知床の一画で展開されており,「原生の森」の再生を目指している「しれとこ100平方メートル運動」を事例に,開拓の歴史が顕在化する過程に注目することで,これまで十分に示されてこなかった遺産としての自然保護地域のプロセスを明らかにすることを目的としている。

    運動最初の20年間において,開拓の歴史は離農に焦点をあてて語られており,軽々しく語ることのできない複雑な記憶として,また運動の推進につながるわけではないものとして認識されていたことから,積極的には語られてこなかった。その後,運動外部の主体が開拓の歴史を肯定的なものへと遺産化し,それが運動担当者に受け入れられたこと,また開拓史が運動推進上不可欠な資源として位置づけられたことにより,運動において開拓史は語り伝えられ,また開拓時代の痕跡である家屋は守り残されるものへと変化していった。このように自然保護地域において開拓史が顕在化してくるプロセスは,原生自然保護による不可視化と切り離すことはできず,両者が関係しあいながら遺産としての自然保護地域のプロセスは進行しているといえる。

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