環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
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巻頭エッセイ
特集 気候変動と専門家
  • 箕浦 一哉
    2020 年 26 巻 p. 6
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
  • 立石 裕二
    2020 年 26 巻 p. 7-23
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    2015年のパリ協定で示された「2°C 目標」を実現するには,短期間で社会の抜本的な変革が求められる。国際会議の場では,気候工学や食料生産のためのバイオ技術のように,有効ではあるが潜在的な危険性を持った選択肢が議論の俎上に載るようになった。本稿では,異質な「現場」をつなぐことで,変革をもたらす主体となりうる専門家のあり方について,アクターネットワーク理論,とくにB. Latour の議論を参考にしつつ論じていく。気候変動問題を分析する上では,これまで環境社会学が主に取り上げてきた地域環境の現場に加えて,グローバルモデルという「もう1つの現場」を取り上げ,2種類の現場の間の関係に注目することが重要である。グローバルモデルの現場では,気候変動に関する研究や将来予測,政策・技術オプションに対する評価,国際的な対策枠組みの検討と決定などが行われる。日本において,グローバルモデルの現場と地域環境の現場という 2 つの現場の間が十分につながっていないことが,気候変動に関する議論や対策が進みにくい一因になっている可能性について検討する。さらに,グローバルモデルあるいは地域環境の現場から出発しつつ,両者をつなぐ専門家の役割に注目した先行研究のレビューを行い,環境社会学にとっての今後の研究課題について検討していく。最後に,こうした研究課題に取り組むことの実践的な意味と,2つの現場をつなぐ専門家として環境社会学者が果たすべき役割について考察する。

  • 杉山 昌広
    2020 年 26 巻 p. 24-43
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    気候変動のリスクに認識が深まるなか,欧米を中心に人工的に気候に介入する気候工学(ジオエンジニアリング)への関心が高まっている。2015 年に国際社会が合意したパリ協定では,気温上昇を 2℃ ないし 1.5℃ に収めることが長期的な目標として謳われているが,長期気温目標を分析したシナリオでは大気から CO2 を除去する二酸化炭素除去は織り込み済みであり,最悪の場合太陽光を反射する太陽放射改変を実施しないと目標が達成できなくなる。欧米では気候変動のリスクを重く見る研究者が気候工学分野に入り込み研究が始まったが,副作用や社会的問題に鑑みて分野横断型の研究が進んでいる。一方,日本では自然科学的な研究も人文社会学的研究も量として十分ではない。技術的な解決手法が肯定的にも否定的にも扱われない理由として,専門家や一般市民のリスク認知の違いが考えられる。日本と欧米の違いについて,社会学的アプローチによる研究が望まれる。

  • 福永 真弓
    2020 年 26 巻 p. 44-59
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    気候変動は「新しい生態系」をもたらし,わたしたちは生きるために新しい物質代謝(マテリアリティ,知識,実践の相互作用)を手探りしている。不確実性の中で確実性を確保するため,かつてなく科学技術となめらかにつながった統治は日常の細部までに及ぶ。歴史的に慣れ親しんできた地球らしさ,人間らしさに寄りかかれないまま,わたしたちは社会実験的日常に生きざるをえない。こうした社会実験的日常の中で,専門家,専門知,そして素人はどのように再編されようとしているのか。いったいその再編はわたしたちに何をもたらそうとしているのか。

    本稿ではこの問いを考える上で,喪失と創作のダイナミズムに着目する。そして,人間の社会実験的な日常の中に放り込まれたサケが,その存在をいくつかにつくり分けられていく様子を描く。その描写は,「気候危機に対処しつつ,わたしたちはどうサケを食べ続けられるのか」という問いへの解,生きものの姿から解放された培養サケ肉という創作の現場にたどりつく。それは,科学的にも,倫理的にも,社会的にも単独の解を出せないまま,解を模索しながら製品をつくる場だ。この製品の市場では,消費者としての素人も含め,関心をもつ多種多様なアクターが,複合的解と製品の形を決めるためのコミュニケーション・交渉相手として現れることが期待され,実際に現れる。本稿では,品質経済とハイブリッド・フォーラム(M.カロン)を手がかりに,消費者として参加する素人たち,専門知,専門家について,その関係性と相互作用を考察する。

  • 富田 涼都
    2020 年 26 巻 p. 60-79
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    日本社会の気候変動への対応は低調だと指摘されてきた。その原因は,当事者の努力や技術開発,「正しい知識」の欠如ではなく,気候変動問題についての社会的な合意や前提となる価値判断の次元も含めて,ローカルな現場で問題の認知やその対応の社会的受容ができない状況が存在しているのではないだろうか。とくに,環境問題についての知識が断片化されて,問題が受け手のリアリティとはつながらない「遠さ」を持つことが,対策の社会的受容を阻んで解決につながらないばかりか,その被害を深刻化させる温床にすらなることは従来の環境社会学においても繰り返し指摘されてきた。

    本稿は,駿河湾サクラエビ漁業の不漁問題を事例に気候変動問題の「遠さ」について,知識の扱われ方に着目して分析を行った。その結果,関係者にとって海に関する知識自体が断片化していること,経験則から外れる事態ゆえに対策の時間のコストが見通せないこと,外部アクターの語りにおいて結果責任の特定を避けられること,という3つが「遠さ」の原因として見いだされた。それに対して,海の環境やサクラエビ漁業に関して,科学知だけでなく在来知を含めた包括的な知識を再構成して共有し,納得するプロセスを地域コミュニティにも開いて明示的に行うことが対応策となりうる。この対応策は,従来の環境社会学においても蓄積のある手法であり,ローカルな環境問題の現場において気候変動問題の「遠さ」を超えることに環境社会学(者)が貢献する余地を示している。

  • 長谷川 公一
    2020 年 26 巻 p. 80-94
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    パリ協定実施開始の前年2019年は,若者を中心とする気候ストライキが世界的に高揚し,9月には185か国で760万人以上が参加した。1都市あたり数十万人規模の参加も珍しくなかった。しかし日本では,全体でも約5000人程度の参加にとどまった。国際比較調査でも日本の市民は気候変動問題への関心が乏しく,気候変動対策を生活の質を脅かすものと否定的に捉える者の割合が高い。気候危機に関する日本政府・企業・メディアの消極性には構造的な根深さがあり,変革の動因が乏しい。

    環境経済学や環境政策学の研究者,海外の環境社会学者の積極性と対比して,日本の環境社会学者のほとんどは,再生可能エネルギー問題をのぞくと,気候変動問題に正面から向き合ってこなかった。政府・企業・メディア・市民の4重の消極性のうえに安住してきたと言える。

    日本の環境社会学は加害・被害構造への関心が強く,とくにフィールド調査にもとづいて,コミュニティ・レベルの被害を総体として捉えようという志向性が強かった。その反面,国家や国際関係,グローバルなレベルでの研究が乏しかった。気候変動問題は,日本の環境社会学が蓄積してきたツールや問題意識を活用しがたい研究領域だった。

    「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を宣言する自治体が日本でも急増している。COM-PON Japan の調査によると,日本政府の気候変動政策の消極性を打破するカギとなることを期待しうるのは,これら気候変動対策に積極的な地方自治体である。

論文
  • 藤原 なつみ
    2020 年 26 巻 p. 95-110
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    持続可能な消費における態度と行動の不一致は,従来,"attitude-behavior gap" として理解されてきたが,それだけでは十分に説明できない場合がある。社会学では,個人と構造の相互作用に着目した「社会的実践理論」の枠組みを用いてこれを捉えようとしている。Shove et al.(2012)の社会的実践理論では,「実践」を物質,能力,意味の 3 つの要素が結びついたものとして理解する。本稿では「持続可能な食消費」に着目し,社会的実践理論を踏まえて「持続可能な消費を実現したいが実現できていない」という消費者が置かれている状況を,個人と構造の相互作用によって「サステナビリティ迷子」が生み出されている状況と捉えられるのではないかと考え,アンケート調査をもとに検討した。さらに,持続可能な消費の実現に向けた政策・介入への示唆を得るため,調査結果をもとに社会的実践理論の分析枠組みを用いてその背景や要因の分析を行った。その結果,「持続可能性に配慮した青果物を購入する」という〈実践〉においては,①情報提供のあり方,②青果物における持続可能性の認識,③消費者のリテラシー不足など複数要素が相互に結びついた多様な「サステナビリティ迷子」が生み出されていることがわかった。

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