パリ協定実施開始の前年2019年は,若者を中心とする気候ストライキが世界的に高揚し,9月には185か国で760万人以上が参加した。1都市あたり数十万人規模の参加も珍しくなかった。しかし日本では,全体でも約5000人程度の参加にとどまった。国際比較調査でも日本の市民は気候変動問題への関心が乏しく,気候変動対策を生活の質を脅かすものと否定的に捉える者の割合が高い。気候危機に関する日本政府・企業・メディアの消極性には構造的な根深さがあり,変革の動因が乏しい。
環境経済学や環境政策学の研究者,海外の環境社会学者の積極性と対比して,日本の環境社会学者のほとんどは,再生可能エネルギー問題をのぞくと,気候変動問題に正面から向き合ってこなかった。政府・企業・メディア・市民の4重の消極性のうえに安住してきたと言える。
日本の環境社会学は加害・被害構造への関心が強く,とくにフィールド調査にもとづいて,コミュニティ・レベルの被害を総体として捉えようという志向性が強かった。その反面,国家や国際関係,グローバルなレベルでの研究が乏しかった。気候変動問題は,日本の環境社会学が蓄積してきたツールや問題意識を活用しがたい研究領域だった。
「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を宣言する自治体が日本でも急増している。COM-PON Japan の調査によると,日本政府の気候変動政策の消極性を打破するカギとなることを期待しうるのは,これら気候変動対策に積極的な地方自治体である。
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