環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集「野生生物」との共存を考える
天然アユと近自然工法
古川 彰
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2008 年 14 巻 p. 21-37

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抄録

人工化された自然の典型である河川,清流の女王と呼ばれるアユ,そしてそれらと関わる人々との関係の変化は,人と自然との関わり方の近代そのものである。本稿ではアユと川と人の関係の変化を追うことを通して,「自然」や「野生」が,人と対象物,人と人との関係の変化のなかで不断に生成される歴史であり,文化であるということの意味をあらためて考えてみた。

1990年代に入り,世界中が環境問題をもっとも主要な国家的な問題として取り上げることで,あらゆる事象が環境との関わりで捉えられるようになる。このような過程を,社会の環境化と捉えると,90年代半ば以降,日本も環境化のただなかにあり,これまで自然や野生とは認識されてこなかった生物やモノが,あらためて自然,野生,環境(の破壊,保全の対象)として見直され続けている。

本稿で取り上げた河川の近自然工法による改修も,天然アユへの志向も環境化という流れのなかの歴史的な出来事である。このような流れのなかで河川もアユも環境保全という管理下に置かれることになるが,本稿が対象とした事例地では,いったん飼い慣らした自然を可能な限り放置しつつ管理するようなあり方を模索している。

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© 2008 環境社会学会
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