環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境と農業の持続可能性
水辺コミュニティの水利用史からみた農業の持続性――有明海干拓農村における水田稲作農業の持続理由――
牧野 厚史
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2017 年 22 巻 p. 41-58

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抄録

現代の農業の持続性を考えたとき,サステイナブルな農業,つまり生態系と調和した農業という回答の仕方もあるが,水田の保全に限ってみても,その持続性の理解について合意があるとはいえない。その理由の1つに生態系というエコロジーの考え方と農民の考える農業の持続性とのズレがある。本稿では,水田と水との関係に強い関心が向けられてきた有明海に面した水辺コミュニティを取り上げ,そこでの「むら」の組織を用いた稲作農業の維持への取り組みを事例として,なぜ,この地区の人々が水田稲作にこだわるのかについて考察した。この地区では,農業と生活の近代化のなかで水と住民との関わりがほぼ失われた結果,水への住民の関心の低下が著しい。本稿では,水田での稲作は地域の水環境に住民が働きかける数少ない機会となっており,稲作の衰退はむらの領土保全の中核となる農家にとってゆゆしき問題として理解されていることを明らかにした。稲作と水との関係が意識される背景には,むら人のノリ養殖の場所である有明海の環境が悪化したことによって,ますます高度な水管理が求められるようになっていることがある。水社会の一員としての現代水辺コミュニティにおける水と人との関わりの鍵となっているのが,稲作なのである。

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© 2017 環境社会学会
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