環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
22 巻
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巻頭エッセイ
特集 環境と農業の持続可能性
  • 富田 涼都
    2017 年 22 巻 p. 4
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2019/02/20
    ジャーナル フリー
  • 桝潟 俊子
    2017 年 22 巻 p. 5-24
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2019/02/20
    ジャーナル フリー

    農業近代化のもと,生産性向上と効率を求め,規模拡大と化学化が進み,生業であった農業が産業となり,農耕・農業という営みは持続性を減退・喪失させてきた。

    有機農業運動は,19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて農業が進み始めた方向に問題を感じ,根本的な変革の必要を感じた科学者や先駆者たちの問題提起や実践から始まった。当時の有機農業先駆者たちが探究した農法・技術は,工業化した農業システムを批判し,「永続性(permanence)」をキー概念とするものであった。本稿では,欧米の有機農業運動の黎明期において形成された〈農耕・農業のあるべき姿〉を〈持続可能な本来農業〉と表記し,「自然な方法で土や動植物に働きかけ,地球上の生命を持続的に支える全体論的(holistic)パラダイムを内包した農耕・農業」と定義した。〈持続可能な本来農業〉の農法・技術の原理は,現在でも基本的に,有機農業運動が追求する理念として,あるいは農法・技術として継承されている。

    そして,本稿では,〈持続可能な本来農業〉を探究する有機農業運動の歴史的・国際的な展開過程をたどる作業をとおして,この100年あまりにわたり,〈持続可能な本来農業〉の思想や理念がどのように継承され,農法・技術の転換や変革はどのように進められ,どのような地平に到達・共有されているのか,さらには〈持続可能な本来農業〉の探究に向けたベストプラクティスや方向性,課題について考察した。

  • 大倉 季久
    2017 年 22 巻 p. 25-40
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2019/02/20
    ジャーナル フリー

    有機農産物がスーパーマーケットなどでも容易に手に入れることができるようになった今日において,環境社会学が問うべき「農業と環境の持続可能性」をとりまく現実とはどのようなものだろうか。ここでは,「クオリティ・ターン」と「個人化」をキーワードに,主として1990年代以降の消費社会に生じた変容と農業をめぐる人びとの対応を概観し,農業と環境の持続可能性をめぐる新たな構図とそのゆくえについて考えてみたい。

    まず,1990年代以降の農業が直面することになった新たな現実について,「クオリティ・ターン」と「個人化する消費」という2つの特質を導き出し,それをもとに農産物の商品化と市場の構築をめぐって生じた,従来の農業に代わる2つのイノベーションのプロセスを概観する。2つのイノベーションは,基本的にリテイル(スーパーマーケット・チェーン)と農業経営者によるアプローチに対応しているが,次に,この2つのアプローチについて,主に現代日本における野菜生産をめぐって生じている取り組みをふまえながら把握し,その具体的な様相を明らかにする。

    最後に,2つのアプローチの関係性に焦点をあてながら,「農業と環境の持続可能性」をとりまいて生じた新たな現実について,その構図を整理し,そこから問題のゆくえを考察しつつ,今後の論点について若干の検討を行いたい。

  • 牧野 厚史
    2017 年 22 巻 p. 41-58
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2019/02/20
    ジャーナル フリー

    現代の農業の持続性を考えたとき,サステイナブルな農業,つまり生態系と調和した農業という回答の仕方もあるが,水田の保全に限ってみても,その持続性の理解について合意があるとはいえない。その理由の1つに生態系というエコロジーの考え方と農民の考える農業の持続性とのズレがある。本稿では,水田と水との関係に強い関心が向けられてきた有明海に面した水辺コミュニティを取り上げ,そこでの「むら」の組織を用いた稲作農業の維持への取り組みを事例として,なぜ,この地区の人々が水田稲作にこだわるのかについて考察した。この地区では,農業と生活の近代化のなかで水と住民との関わりがほぼ失われた結果,水への住民の関心の低下が著しい。本稿では,水田での稲作は地域の水環境に住民が働きかける数少ない機会となっており,稲作の衰退はむらの領土保全の中核となる農家にとってゆゆしき問題として理解されていることを明らかにした。稲作と水との関係が意識される背景には,むら人のノリ養殖の場所である有明海の環境が悪化したことによって,ますます高度な水管理が求められるようになっていることがある。水社会の一員としての現代水辺コミュニティにおける水と人との関わりの鍵となっているのが,稲作なのである。

小特集 農業の多様な展開
論文
  • 寺内 大左
    2017 年 22 巻 p. 82-99
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2019/02/20
    ジャーナル フリー

    インドネシアでは地方分権化・民主化以降,住民参加型・協働型の資源管理政策・事業が重視されるようになってきた。しかし,政策・事業の重要アクターである先住民の社会では資源利用制度をめぐる混乱が生じており,その実態解明が求められる。本稿は東カリマンタン州の焼畑社会において,1)資源利用制度の正当性をめぐる競合と2)新たな制度の普及プロセスを明らかにする。

    村人は「(働きかけや歴史性に基づく)権利意識」「稀少性」「トゥラシの規範(相手の生活を思いやる規範)」を基準に資源利用制度の正当性を判断していた。地方分権化・民主化以降,特定の相続集団の原生的森林地域に対する「(歴史性に基づく)権利意識」と資源・土地の「稀少性」が高まった。そして,その相続集団は,相続集団外の村人の資源利用に対して,従来の自由なアクセスではなく,「アクセス不可」や「条件付きアクセス」を要求するようになった。一方,相続集団外の村人は,原生的森林地域を地方分権化・民主化以前のように「(働きかけに基づく)権利意識」が低く,資源・土地の「稀少性」も低い地域と認識しており,その「アクセス不可」と「条件付きアクセス」に正当性を付与していなかった。しかし,正当性が十分付与されていないにもかかわらず,一部の「条件付きアクセス」は社会に普及しつつあった。その普及のメカニズムは衝突の忌避と互酬行為という文化的要因に基づいていることが明らかになった。

研究ノート
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