環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境と農業の持続可能性
有機農業運動の展開にみる〈持続可能な本来農業〉の探究
桝潟 俊子
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2017 年 22 巻 p. 5-24

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抄録

農業近代化のもと,生産性向上と効率を求め,規模拡大と化学化が進み,生業であった農業が産業となり,農耕・農業という営みは持続性を減退・喪失させてきた。

有機農業運動は,19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて農業が進み始めた方向に問題を感じ,根本的な変革の必要を感じた科学者や先駆者たちの問題提起や実践から始まった。当時の有機農業先駆者たちが探究した農法・技術は,工業化した農業システムを批判し,「永続性(permanence)」をキー概念とするものであった。本稿では,欧米の有機農業運動の黎明期において形成された〈農耕・農業のあるべき姿〉を〈持続可能な本来農業〉と表記し,「自然な方法で土や動植物に働きかけ,地球上の生命を持続的に支える全体論的(holistic)パラダイムを内包した農耕・農業」と定義した。〈持続可能な本来農業〉の農法・技術の原理は,現在でも基本的に,有機農業運動が追求する理念として,あるいは農法・技術として継承されている。

そして,本稿では,〈持続可能な本来農業〉を探究する有機農業運動の歴史的・国際的な展開過程をたどる作業をとおして,この100年あまりにわたり,〈持続可能な本来農業〉の思想や理念がどのように継承され,農法・技術の転換や変革はどのように進められ,どのような地平に到達・共有されているのか,さらには〈持続可能な本来農業〉の探究に向けたベストプラクティスや方向性,課題について考察した。

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© 2017 環境社会学会
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