京都議定書第一約束期間中の日本経済団体連合会による自主行動計画を事例に,気候変動政策における産業界の「自主的取り組み(voluntary approaches)」の作動メカニズムを,聞き取りをもとに分析した。具体的には「自主的取り組み」をめぐるガバナンス論の枠組みを用いて,「産業界内部の統合力」と政府の暗黙の存在感である「政府の影」という観点から,自主行動計画を機能させる2つの要因を扱った。第1に,「フリーライダー」を防止する仕組みである。経団連・業界団体は「一番不利になる企業に合わせる」という慣行を敷くことで,離脱を防止する組織原理を採用していた。また業界団体が業界の利益を代表する代替不可能な存在である限り,業界単位での付き合いは長期的に続くため「繰り返しゲーム」状況になっていた。第2に,対策目標が限りなく低下するのを防ぐ仕組みとして,各企業の担当者たちのなかには気候変動対策に大きな関心を持つ人びとも多く,彼らの存在が実際の対策を推進していたこと,また政治的影響力を確保し続けるという組織の存在理由を維持するために,業界団体は対策成果を上げることへの誘因を持っていた。しかし自主行動計画を機能させるこれらの要因は限界も持っている。すなわち先進的対策を求める企業の声が表に出てこなくなること(「保守化フィルター」),業界団体の地位の低下には脆弱であること,主体的従属性という「政府の影」を利用した対策であるため,気候変動対策が経営戦略としては明確に位置づけられにくいことである。