本稿の目的は,資源利用の用益が低くなり, “所有者不明土地” と化していた浜辺の共有地をめぐり,なにゆえに,法人格を取得した地域コミュニティがその名義変更に膨大な手間をかけつつ多額の共有資金を投入したのかをあきらかにすることである。
本稿でとりあげる事例は,沖縄県八重山諸島の隆起サンゴ礁島のものである。海岸林(スイヌメ)や砂浜(ハマ),礁池(イノー)からなる浜辺は,人びとが入り合う「辺」の空間であり,様々な資源を供給するローカル・コモンズであった。しかしながら,昭和30年代以降になると,伝統的入浜慣行は急速に衰退し,浜辺の共有地は “所有者不明土地” の状態に陥っていった。
本稿は,資源利用の用益の低くなったこれらの共有地の名義変更の取り組みの意味をとらえることにより,ローカル・コモンズ研究が資源利用の側面にのみ限らず,コミュニティによる “生活の無事” を図るためのコモンズへの働きかけをより積極的に射程に入れていく必要があることを指摘した。