環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
論文
1970年代の『月刊むし』における昆虫採集擁護論の特徴と課題——昆虫が減少する現代の文脈において——
渡邉 悟史
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2019 年 25 巻 p. 171-185

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抄録

本稿は1970年代日本の昆虫採集擁護論を検討しながら,昆虫保護のために発言する集団を形成しようとする試みが直面した課題を明らかにする。昆虫は人類の生存に関わる多くの生態系サービスを提供しているが,急激な減少傾向にあるうえ,注目や優先度が低い傾向にもある。では昆虫のような小さな,場合によっては気持ち悪がられるような生き物の状況に関心を持ち,その保護のために尽力する人びとをどのように生み出すことができるだろうか。このとき1970年代の日本で展開された昆虫採集論争は注目に値する。これはアマチュア愛好家による昆虫採集を自然破壊の元凶として批判する声が上がったことをきっかけに展開された論争である。1971年創刊の『月刊むし』の編集者たちは「虫をより知っている,またより知ろうという者」「虫の味方」といった意味を「虫屋」というアイデンティティに込めることによって,昆虫愛好家が昆虫保護のために発言する資格を担い,自然保護や開発政策の形成過程における存在感を高めようとした。この試みは政策形成過程において小さな生き物の利害について語るという行為を,どうすれば昆虫採集の地続きとして「楽しみ」・「喜び」をもって行うことができるのかという問題を提起するものでもあった。

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