環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境社会学からの軍事問題研究への接近
環境社会学による軍事環境問題研究——岩国基地への空母艦載機移駐問題の事例から——
朝井 志歩
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2019 年 25 巻 p. 71-87

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抄録

本稿では,軍事被害が社会に何をもたらすのかを環境社会学の観点から明示した。岩国基地への艦載機移駐問題を事例として,岩国基地沖合移設事業や住民投票が実施された経緯について考察し,岩国市で空母艦載機部隊の移駐への賛否を問う住民投票が実施された背景について明らかにした。艦載機移駐に反対の意思を示した岩国市で,住民投票後に生じた新市庁舎補助金凍結問題や,愛宕山新住宅市街地開発事業の廃止と米軍住宅建設計画などの諸問題について考察し,基地関連予算に基づいた諸政策が地域社会にもたらした影響について検討した。そして,地域社会の変容が住民投票後の住民運動や訴訟に何をもたらし,いかにして声を上げ続けることが困難な状況が生じていったのかを明らかにした。岩国基地への艦載機移駐問題の事例を踏まえて,軍事環境問題の加害構造の特徴として,環境規制を遵守させる機能の不在,法的な正当性の根拠が疑わしい政策決定の横行,意思決定権限の非対称性と意思決定過程の閉鎖性,情報が隠蔽や秘匿されやすいという4点を提示した。そして,それらが地域社会の将来を自己決定できなくなることや軍事化の進展,将来に対する怖れや不安や懐疑心を抱え続けること,諦めの広がりといった,軍事基地を抱えることによる被害を作り出していると結論づけた。最後に,環境社会学が軍事環境問題研究に果たすべき課題を提示した。

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© 2019 環境社会学会
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