環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集2 グローバル・コモディティの環境社会学
生活市場主義に向けて─ラオス南部におけるコーヒーの取引をめぐる競争と調和─
箕曲 在弘
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 27 巻 p. 101-116

詳細
抄録

本稿では,グローバル・コモディティのサプライチェーンにおける川上に位置する生産現場に焦点を当て,市場における競争を通して製品の価値を上昇させることを目指す「市場競争主義」と過度な市場競争がもたらす収奪に対して抵抗する「反市場主義」とは異なる第3の立場である「生活市場主義」の意義について検討する。「生活市場主義」は,市場競争に一定の理解を示しつつも,市場取引の現場に見られる過度な競争志向に対して生産者の生活の論理を軸として対抗していく立場を指す。ここでいう生活の論理とは,取引の現場において生産者の置かれる社会関係に根ざした信念や価値を指している。本稿は,ラオス南部のコーヒー生産地域のバイヤーと農家の関係構築過程に関する民族誌的記述をもとに,この立場の内実を明らかする。同地域では自らの取引の方法を「民衆交易」と呼ぶコーヒー買付団体と,その取引相手である農協が2010年より関係を構築してきた。この農協に新たな支援者として,品質によって買付価格に差をつけることを目指す農技師がやってきた。本稿ではこの支援者の買付方法に対する農協幹部の不満の内実をつまびらかにすることを通して,農協幹部が個人間の競争を避けつつ,組合員の調和を崩さない形でコーヒーの売却を志向していることを示す。この事例を通して農家側の生活の論理に寄り添う取引形態を採用する立場を「生活市場主義」として位置づけ,持続可能な取引の関係を構築していくうえで,バイヤーが彼らの生活の論理に一定の理解を示すことが重要であると論じる。

著者関連情報
© 2021 環境社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top