災害発生から復興にいたる過程では,災害以前の生活を思い起こす地域的,個人的な習慣に基づく時間の連続性が必要とされてきた。しかしながら,原発事故による避難生活では,住み慣れた場所を移動することで,過去の生活に基づく連続性が意味をなさないものになった。本稿の対象者である原発避難者は,新しい土地への適応を試みる一方で,避難以前の自己の一部である記憶を捨てることができないというジレンマに直面した。本稿の目的は,原発避難者が,生活世界の再生に必要な「生活の時間」を,ものづくりを通してどのように構成しているのかについて明らかにする。福島県南相馬市からの避難者である1人の女性を対象に,避難する以前に着ていた衣類を切り貼りして風景を描く「布絵づくり」に注目する。対象者は布絵の制作過程で,現在と過去を往復し,自己の過去と現在に向き合うための時間を構成していた。またそれには,原発事故によって破壊された過去と現在をつなぎ合わせる意味があった。原発事故による経験を,災害以前から続く時間軸に位置づけることが困難であるからこそ,現在でありながら過去の時間でもあるものづくりを行うことで,「生活の時間」を再構成してきたのである。