抄録
症例の概要:患者は54歳男性. 1 の動揺をともなう腫脹を主訴に受診した.同歯は保存不可能と判断し,インプラントによる欠
損補綴を行った.この患者は主訴以外の上顎前歯部領域を中心とした審美的,機能的な問題があり,これらを改善するために全
顎的な治療介入を行うこととした.顔貌も含めた種々の検討によって歯肉レベルの変更も含めた治療ゴールを設定し,歯周形成
外科,インプラント治療および矯正治療を行い,患者の満足する治療結果が得られた.
考察:上顎前歯部の補綴治療においては,審美的かつ機能的な観点から,歯の切縁の位置,歯冠形態が決定され,最終的な歯肉
レベルが導き出される.それを基準にして,残存歯においてはフェルール獲得などを考慮した歯冠長延長術を計画し,インプラ
ント埋入においては生物学的安定と最終補綴形態を考慮した三次元的な埋入位置を決定した.最終治療ゴールを見据えた治療計
画を立てることで効率的かつ低侵襲な外科治療で審美的かつ機能的な治療結果が得られたと考える.
結論:治療ゴールから割り出される三次元的なインプラント埋入部位はピンポイントでしか存在しない.そのため歯周組織の状
態だけでなく,顔貌・口元からの診察を行い,適切な治療計画の立案と遂行が必要である.