日本臨床歯科学会雑誌
Online ISSN : 2759-1883
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9 巻, 1 号
日本臨床歯科学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 大河 雅之
    2023 年9 巻1 号 p. 6-29
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    現在,補綴修復治療はバイオミメティック(生体模倣)アプローチという考えかたが浸透し,できるだけエナメル質と歯の構造を保存する接着修復が世界的に潮流となってきている.接着技術の進化とインプラントの登場の恩恵によりクラウンやブリッジ修復における従来型の保持形態,抵抗形態付与のためのアグレッシブなクラウン支台歯形成は,前歯のみならず臼歯においても,今やそれらの再治療時のみに用いられるべきと考える.つまり現段階では歯の硬組織の再生が困難である以上,治療侵襲は必要最小限にとどめ,残存する歯の構造と組織を温存し天然歯固有の優位性を最大限に生かすことにより生物学的,構造力学的,機能的,審美的特性を天然歯に近似させ再現させることがベニア補綴修復治療の目的となる.臼歯ベニアのプレパレーションデザインは,( 1 )残存歯質量と修復装置軸面数,( 2 )接着のクオリティー,( 3 )バイオメカニックス,( 4 )トゥースフレクシャーコントロール,( 5 )被着界面の保守,( 6 )マテリアルセレクション,( 7 )修復装置の厚み,などの視点から症例ごとに導き出されるべきであり,種々のベニアのデザインが存在する.本総説では文献検索を交え,臼歯ベニアの推奨されるプレパレーションデザインをエビデンスとエクスペリエンスの両視点から考察してみたい.また,系統立ったベニアデザイン分類の報告は少な く,とくに臼歯においてはあまり報告がされていない.そこでエナメル質の保全を柱に系統立てた臼歯ベニア分類についても整理してみたい.
  • 構 義徳, 中村 茂人, 吉田 賢正
    2023 年9 巻1 号 p. 30-37
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    目的:下顎側方偏位患者の多くに咬合系の変化や顎関節症状が認められたという報告がある.下顎側方偏位症例は,近遠心的な臼歯関係や前頭面における頬舌的な臼歯歯軸の左右差あるいは臼歯部反対咬合などの問題を併発していることが多く,治療により機能的に満足のいく咬合を作りあげることがもっとも困難な症例のひとつであると言える.本研究では咬頭嵌合位にて下顔面の非対称なものを下顎側方偏位群として抽出し,下顎側方偏位,関節円板転位,および咬合平面の傾きの関連性について調査した. 方法:本研究の参加施設で,同一の撮影機器で撮影された口腔内写真および正貌頭部エックス線規格写真を同一の歯科医師が分析し,下顎骨が頭蓋正中に対して偏位している患者を研究対象者とし,他院に顎関節のMRI 撮像を依頼した.MRIを基に, 1 名の放射線専門医である歯科医師が関節円板転位の有無を診断した.また,下顎側方偏位の程度と咬合状態ならびに骨格に関連する変数の相関係数を算出した. 結果:前頭面における咬合平面および下顎下縁平面は,偏位側がより上方に位置し,下顎側方偏位を代表する変数である顎偏位度と,咬合状態を代表する変数である咬合平面角(ρ =0.684,p<0.001),下顎下縁平面角(ρ =0.714,p<0.001)に強い相関が認められた.また,下顎側方偏位症例の81.7%において関節円板転位が認められた.さらに,関節円板転位は偏位側および非偏位側の両側に認める割合がもっとも高く(61.7%),下顎側方偏位症例の偏位側の35%,非偏位側の25%に変形性顎関節症が認められた. 結論:下顎側方偏位症例の多くに関節円板転位が認められ,さらには咬合平面に傾斜が生じていた. 下顎側方偏位と咬合平面の傾斜の間には何らかの関連があることが示唆された.
  • 吉田 茂治, 綿引 淳一
    2023 年9 巻1 号 p. 38-47
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)に対する口腔内装置(oral appliance:OA)の治療効果を予測する上で,舌位の定量的評価について,その有用性を検討することを目的とした.方法:連携医療機関にてOSAと診断を受け,当診療所を受診した患者の中から,口腔内装置による治療を選択した無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index,以下 AHI)10以上で20歳以上の患者(男女)を対象とした.本研究ではOSAと診断されたPSG 検査実施からOA 使用開始までを術前,OA 使用開始から 3 ~ 6 ヵ月経過し就寝中のOAの連続使用可能と判断後,OAの効果を評価するためのポリソムノグラフ(PSG)検査実施時点を術後と定義した.術前後に実施したPSG 記録,PSG 検査直前に測定したBMI(body mass index)とEpworth sleepiness scale(ESS),舌位の指標として術前に撮影した側方頭部エックス線規格写真(セファロ)上で計測した口蓋平面から発し上顎第一大臼歯の遠心端を通る垂線と舌表面の交点までの距離(T-PL)およびlower facial height(LFH)を含む各種評価項目とした.また.術後のPSG 検査結果からAHIが 5 未満の場合をresponders,AHIが 5 以上の場合をnon-respondersに分けた.両群間の比較に際し,正規分布の変数はStudent t-test,非正規分布の変数はMann-Whitney U 検定を用いた.各群内の術前後の比較に際し,正規分布の変数にはpaired t-testを,非正規分布の変数にはWilcoxon signed-rank testを行った.また正規分布する変数の効果量(Cohen's d)と非正規分布の連続変数の効果量(r)を算出した.OAの治療効果の予測因子を決定するために,ロジスティック回帰分析を行った.有意水準は 5 %とした.結果:本研究で対象とした80名(男性68名,女性12名)のOSA 患者は軽度(n =24),中等度(n =36),重度(n =20)に分類された.術前の年齢の平均値は46.6±12.5歳,BMIの平均値は24.0±3.2kg/m 2 ,AHIの中央値は19.2(14.1-30.5)回/時,エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness scale:ESS)の平均値は11.0±5.4であった.OA治療のresponders(33名),non-responders(47名)の両群間で,術前のBMI,AHI,レム期 AHI,ノンレム期 AHI,LFHに有意差を認めた( p<0.05).舌位の評価に用いたT-PLは両群間に有意な差は認めなかった.各群研究対象者内での術前後の比較では,OA装着によってAHI,レム期AHI,ノンレム期AHIが有意に減少し( p<0.01),最低 SpO 2 が有意に増加した( p<0.01).ロジスティック回帰分析では術前 AHIとBMI,LFHに有意差を認め,OA 治療効果の有意な予測因子として認められた( p<0.05).結論:OA 治療術前に撮影したセファロにおける各種評価項目とOAの治療効果の関連を評価した結果,LFHがOA 治療効果の予測因子となる可能性がある一方,舌位評価に用いたT-PLはOA 療法の治療効果予測因子として使用できないことが示唆された.
  • 武川 泰久
    2023 年9 巻1 号 p. 48-57
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    Purpose:To review the efficacy of minimally invasive non-surgical therapy with the combination of surgical microscope and Er:YAG laser in Stage III and IV periodontitis. Methods:A retrospective study was performed regarding clinical and radiological parameters before and after periodontitis treatment in patients 20 years old or older treated using the technique between November 2019 and March 2022 to explore factors for achieving clinical attachment level gain ≥3 mm and postoperative probing pocket depth (PPD) ≤ 4 mm. Results:Following treatment,parameters were significantly improved regardless of root canal morphology or site,and the treatment target achievement rate was increased in 8 mm ≤ preoperative PPD ≤ 10 mm and preoperative vertical bony defect amount ≤ 4 mm. Conclusions:The study shows the usefulness of the technique in Stage III and IV periodontitis,and preoperative PPD and the infrabony defect amount are possible indicators.
  • Makoto Saito, Yuhei Matsuda, Takahiro Kanno
    2023 年9 巻1 号 p. 58-65
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    Purpose: This study aimed to investigate variations in the amount of Porphyromonas gingivalis (P. gingivalis) over time after dental implant prosthetic treatment using a semi-quantitative reverse transcription polymerase chain reaction (RT-PCR). Methods: From October 2020 to April 2022, samples were obtained from the natural teeth and dental implants to evaluate the bacterial amount (P. gingivalis and P. gingivalis Type Ⅱ) using orcoa®, a semi-quantitative RT-PCR-based device developed to detect oral bacteria, at three timepoints (prior to dental implant prosthesis, one month after prosthesis, and six months after prosthesis). Additionally, participants' demographic data were collected. Result: This survey included 20 consecutive patients treated with dental implants (9 [45.0 %] men and 11 [55.0 %] women), with a median age of 62.0 years (interquartile range, 50.0–74.0 years). With regard to the natural teeth, significant differences in P. gingivalis amount in the gingival pocket were observed between the high and low groups at all timepoints (P <0.05). In contrast, no significant differences in P. gingivalis amount in the gingival pockets around dental implants were observed between the groups over time. Conclusion: In patients with well-maintained oral care, the amount of P. gingivalis could not increase in the pocket of dental implant treatment within 6 months after the prosthesis. The growth of P. gingivalis in the gingival pocket is dissimilar and its kinetics differ between the natural teeth and dental implants.
  • 髙藤 恭子, 福徳 暁宏
    2023 年9 巻1 号 p. 66-71
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    Purpose:Peri-implantitis is one of the biological complications that affects the survival rate of implant bodies. However, there are no effective treatment for it and prevention of peri-implantitis depends on patient self-care. The purpose of this study was to measure the number of oral bacteria before and after the use of mouth wash and to evaluate the growth inhibitory effect of mouthwash on oral bacteria. Methods:The subjects were 30 patients undergoing implant maintenance. The number of bacteria was measured with a mea- suring device. At the same time, a paper point was inserted into the gingival sulcus of a natural tooth to collect a sample, and various bacteria were quantified by a quantitative PCR method. After that, patients used mouth wash for one week, and then bacteria were collected. Each data was statistically analyzed ( p <.05). Results:Continued use of mouth wash for one week significantly reduced the number of bacteria in the oral cavity. Quantitative PCR showed the number of 6 bacterial species decreased, and of which 2 were statistically significant. Conclusions: In this study, it was suggested that continuous use of mouth wash has the effect of reducing the number of oral bacteria and suppressing the growth of oral bacteria.
  • 鈴木 真名, 山口 文誉
    2023 年9 巻1 号 p. 72-77
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    目的: ポンティックの基底面と欠損部歯槽堤との接触関係による分類を提案する. 材料と方法: 1 ;Naturally fit type pontic, 2 ;Pressured gingival type pontic, 3 ;Modified gingival type ponticの 3 つのタイ プに分類し,各々の特徴を検討した. 考察:Naturally fit type ponticは,欠損部歯槽堤そのままの形態に合わせてポンティック基底面を接触させるタイプで審美的・機 能的・衛生的な要求が強くない症例に適応となる.Pressured gingival type ponticは,審美性と清掃性の向上のためにポンティッ ク基底面を凸状にし歯槽堤の軟組織を加圧接触させるタイプである.そして,審美性を強く求める場合にはModified gingival type ponticが適応となり,積極的に軟組織を形成しポンティック基底部を欠損部歯槽堤のより深い位置まで接触させる. 結論:ポンティックは形態よりも基底面と欠損部歯槽堤の軟組織との接触関係のほうが重要であり,欠損部歯槽堤の状態や審美 的・機能的・衛生的な要求の度合いにより使い分けられる.
  • 中野 忠彦
    2023 年9 巻1 号 p. 78-89
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は40歳の男性.主訴は前歯部叢生による審美障害の改善.以前から上下顎前歯部叢生に不満をもっていた.喫 煙による多量のステイン付着,および臼歯部咬合面の咬耗からクレンチングが疑われた.その他口腔内所見から,嗜好品による 酸蝕症(嗜好品が梅干しと炭酸水),逆流性食道炎の既往歴,摩耗症(ブラッシング)があり,物理的・化学的要因から臼歯部頬舌 側歯頚部に実質欠損もみられた. 前歯部叢生をともなう軽度骨格性Ⅲ級患者に対し,包括的な治療計画に基づき矯正歯科治療と補綴治療を併用して治療を行っ た.その結果,主訴が改善し,目標どおりの治療結果が得られた. 考察:成人の骨格性Ⅲ級の治療に際しては,まず歯周基本治療後,矯正歯科治療のみを行うのか,外科手術を併用するのかを診 断しなければならない.判定に用いる指標として,Valkoら 1 はANBが- 2 °以下を外科矯正の適応としている.今回の症例では ANBが 0 °の軽度骨格性Ⅲ級患者であるため,非外科的な治療法を採用した.治療計画として,咬合平面をやや急峻にすることで 下顎の前方移動を防ぎ,咬合高径を挙上することにより下顎骨を時計回りに回転させ,矢状面における上下顎の対向関係をⅢ級 からⅠ級方向に近づける治療法を選択した 2 .また,上下顎臼歯部に咬耗が認められている状態で適切な咬合付与を目的とする ためには,歯質を最大限に保存した補綴治療の併用によって歯冠形態を回復する必要があると考える. 結論:歯列と歯の形態に問題を抱える軽度骨格性Ⅲ級患者に対して,矯正歯科治療と補綴治療を併用した包括的歯科治療を行っ た.その結果,下顎位・咬合平面・咬合高径を変更することで,上下顎前歯部被蓋・臼歯部咬合支持も確立し,審美的・機能的 にも改善された.今後は,改変した下顎位・歯周組織・補綴装置の維持・安定のため,慎重な経過観察が必要である.
  • 菊池 大輔
    2023 年9 巻1 号 p. 90-97
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2025/09/15
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は54歳男性. 1 の動揺をともなう腫脹を主訴に受診した.同歯は保存不可能と判断し,インプラントによる欠 損補綴を行った.この患者は主訴以外の上顎前歯部領域を中心とした審美的,機能的な問題があり,これらを改善するために全 顎的な治療介入を行うこととした.顔貌も含めた種々の検討によって歯肉レベルの変更も含めた治療ゴールを設定し,歯周形成 外科,インプラント治療および矯正治療を行い,患者の満足する治療結果が得られた. 考察:上顎前歯部の補綴治療においては,審美的かつ機能的な観点から,歯の切縁の位置,歯冠形態が決定され,最終的な歯肉 レベルが導き出される.それを基準にして,残存歯においてはフェルール獲得などを考慮した歯冠長延長術を計画し,インプラ ント埋入においては生物学的安定と最終補綴形態を考慮した三次元的な埋入位置を決定した.最終治療ゴールを見据えた治療計 画を立てることで効率的かつ低侵襲な外科治療で審美的かつ機能的な治療結果が得られたと考える. 結論:治療ゴールから割り出される三次元的なインプラント埋入部位はピンポイントでしか存在しない.そのため歯周組織の状 態だけでなく,顔貌・口元からの診察を行い,適切な治療計画の立案と遂行が必要である.
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