日本臨床歯科学会雑誌
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前歯部叢生をともなう軽度骨格性Ⅲ級患者に対して包括的歯科治療を行った一症例
中野 忠彦
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2023 年 9 巻 1 号 p. 78-89

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抄録
症例の概要:患者は40歳の男性.主訴は前歯部叢生による審美障害の改善.以前から上下顎前歯部叢生に不満をもっていた.喫 煙による多量のステイン付着,および臼歯部咬合面の咬耗からクレンチングが疑われた.その他口腔内所見から,嗜好品による 酸蝕症(嗜好品が梅干しと炭酸水),逆流性食道炎の既往歴,摩耗症(ブラッシング)があり,物理的・化学的要因から臼歯部頬舌 側歯頚部に実質欠損もみられた. 前歯部叢生をともなう軽度骨格性Ⅲ級患者に対し,包括的な治療計画に基づき矯正歯科治療と補綴治療を併用して治療を行っ た.その結果,主訴が改善し,目標どおりの治療結果が得られた. 考察:成人の骨格性Ⅲ級の治療に際しては,まず歯周基本治療後,矯正歯科治療のみを行うのか,外科手術を併用するのかを診 断しなければならない.判定に用いる指標として,Valkoら 1 はANBが- 2 °以下を外科矯正の適応としている.今回の症例では ANBが 0 °の軽度骨格性Ⅲ級患者であるため,非外科的な治療法を採用した.治療計画として,咬合平面をやや急峻にすることで 下顎の前方移動を防ぎ,咬合高径を挙上することにより下顎骨を時計回りに回転させ,矢状面における上下顎の対向関係をⅢ級 からⅠ級方向に近づける治療法を選択した 2 .また,上下顎臼歯部に咬耗が認められている状態で適切な咬合付与を目的とする ためには,歯質を最大限に保存した補綴治療の併用によって歯冠形態を回復する必要があると考える. 結論:歯列と歯の形態に問題を抱える軽度骨格性Ⅲ級患者に対して,矯正歯科治療と補綴治療を併用した包括的歯科治療を行っ た.その結果,下顎位・咬合平面・咬合高径を変更することで,上下顎前歯部被蓋・臼歯部咬合支持も確立し,審美的・機能的 にも改善された.今後は,改変した下顎位・歯周組織・補綴装置の維持・安定のため,慎重な経過観察が必要である.
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