抄録
(目的) ジスチグミンには重篤な副作用であるコリン作動性クリーゼがあり,低緊張性膀胱による排尿困難に対しては,用法・用量が1日5 mgのみに変更された.そこで,α1遮断薬投与後も効果不十分な排尿筋低活動による排尿困難の患者を対象として,ジスチグミン1日5 mg併用の有効性と安全性を検討した. (対象と方法) α1遮断薬を4週間以上投与しても排尿困難の改善が不十分か,残尿が50 ml以上ある低活動膀胱(排尿筋低活動)の39例(男性18例,女性21例,平均年齢75歳)に対して,α1遮断薬に加えてジスチグミン5 mg錠を1日1回朝食後に8週間投与し,国際前立腺症状スコア(IPSS),quality-of-life(QOL)スコア,残尿量,血圧,血液生化学検査の変化を調べた. (結果) ジスチグミン投与4週後と8週後には,IPSSのすべての項目,QOLスコアと残尿量が有意に低下した.血圧,脈拍と血清コリンエステラーゼ値に有意な変化はなく,血清クレアチニン値が僅かではあるが有意に低下した.有害事象として4例(10%)に頻便,便失禁,下痢,頻尿や体調不良を認めたが,重篤なものはなかった. (結論) 排尿筋低活動による排尿困難に対して,α1遮断薬とジスチグミン1日5 mgの併用は早期に効果が出現し,有効かつ安全と考えられた.