2021 年 112 巻 3 号 p. 141-145
遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌(Hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer(HLRCC))症候群が疑われたFH欠損腎細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は42歳男性,既往歴に特記事項はなかった.腎癌疑いで当院を紹介受診し,右腎癌cT3aN2M0に対して根治的右腎摘除術,リンパ節郭清術を施行した.免疫染色も含めた病理結果はFH(fumarate hydratase)欠損腎細胞癌pT3aN2であった.臨床病理学的共通点が多いHLRCC関連腎細胞癌の可能性も疑い,遺伝学的検査を施行するも,HLRCCと確定診断できなかった.HLRCCは常染色体優性遺伝疾患で皮膚や子宮の平滑筋種を発症する症候群であり,10~16%に腎癌を併発する.染色体1q43に存在するFH遺伝子の変異が原因とされる.HLRCC関連腎細胞癌は早期に全身転移する傾向があり予後は不良であることが知られている.本症例はFH欠損腎細胞癌と診断されたが,遺伝学的検査ではHLRCCと確定診断できなかった.FH欠損腎細胞癌の症例ではHLRCC関連腎細胞癌の可能性を疑い,臨床的診断基準を満たす場合には遺伝カウンセリングの上HLRCCのスクリーニングまで行うことが望ましい.HLRCCの臨床的診断基準を満たさない場合や,遺伝学的検査でHLRCCと確定診断ができない場合も,FH欠損腎細胞癌は予後不良であり,慎重な経過観察が必要である.