1984 年 75 巻 12 号 p. 1939-1948
精巣腫瘍の組織発生に関する研究の一環として, 本邦第5例目と思われる spermatocytic seminoma の電顕像を観察した.
光顕的には腫瘍細胞は大小不同でPAS染色陰性であり, 間質は乏しくリンパ球浸潤は全くみられず, これらの点で typical seminoma とは異なっていた. ほば円形の大型核内にみられるクロマチンの糸くず状の配列は, 正常一次精母細胞の還元分裂前期における核糸の状態と類似していた.
電顕的観察では, 腫瘍細胞は10~20μmの大きさの中型細胞が主体をなし, 一部小型細胞や巨細胞を混える. 核は円形~卵円形で辺縁平滑であり, 核小体は良く発達し nucleolonema (核小体糸) が明瞭である. クロマチンは一様に分布するが時に粗に凝集してみられた. 細胞質小器官では特異な構造として, 横紋を有する ciliary rootlet が観察された. また細胞間に intercellular bridge (細胞間橋) がしばしばみられたが, 他の精巣腫瘍では観察されておらず, 本腫瘍に特徴的所見と思われた.
以上より本腫瘍は電顕的に胚細胞由来の独立した腫瘍と認められたが, その発生母地に関しては更に検討を要すると思われた.