日本泌尿器科學會雑誌
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ヒト胎児腎の発生に関する研究
ネフロンの新生と尿細管基底膜の出現
宮部 憲朗松野 正坂下 茂夫
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1984 年 75 巻 12 号 p. 1949-1955

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抄録

胎生5~12週のヒト胎児後腎を用いて, PAP法による基底膜蛋白 laminin 染色および, 従来からの基底膜染色法であるPAM法によりネフロンの新生と尿細管基底膜の出現という面から, 組織形態学的検討を行ない, 下記の結果が得られた.
(1) 尿管芽基底膜蛋白 laminin は胎生5週で, すでに線状に染色された.
(2) 間葉系細胞である後腎芽細胞集団では, 腎小胞を形成する時期に, laminin が染色され, 間葉系細胞から上皮系細胞への分化がこの時期に起こり, この細胞の分化に対し laminin が何らかの役割をはたしていると思われた. PAM法では, この時期での基底膜は染色されてこなかつた.
(3) S字状体の時期に, S字状体と尿管芽が接合し, 糸球体から腎盂にいたる連続した系が形成されることが明らかとなつたが, PAM法では尿細管の一部が染色されたのみであつた.
(4) ネフロンの新生が進むにつれ, 基底膜蛋白 laminin の局在様式は, 斑状 (punctate pattern) から線状 (linear pattern) へと変化した. この段階でPAM法においても, 基底膜が染色されてきた.
以上よりPAP法による laminin 染色はPAM法よりも, より特異的染色法であり, この基底膜蛋白 laminin は, 胎生期のきわめて初期から細胞の分化, 発生に, 何らかの役割をはたしていることが示唆された.

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