日本泌尿器科學會雑誌
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ヒト精漿中hCG-βと精子発生能との関連性
ヒト精漿成分の研究 第1報
斉藤 誠一大野 一典熊本 悦明
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1984 年 75 巻 12 号 p. 1970-1981

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抄録

ヒト精漿中 human chorionic gonadotropin β-subunit (以下hCG-βと略す) を radioimmunoassay (以下RIAと略す) 法で測定した.
正常対照20例では, 3.7±1.6ng/mlと血中よりかなりの高濃度で測定され, 精子数20~39×106/mlの軽度乏精子症患者14例で, 2.5±0.8ng/ml, 1~19×106/mlの高度乏精子症患者22例で1.7±0.5ng/ml, 無精子症患者14例では, 1.5±0.6ng/mlと精子数の減少とともにhCG-βも低下するという一定の関係が認められた. なお, 精子数とともに, 睾丸生検を施行した17例において, germinal cell を sertoli 細胞数で除した germinal cell index, および睾丸容積と精漿中hCG-βの間には, 正の相関傾向が認められた. さらに, 血清中および精漿中LH, FSHとは負の相関を, また精漿中 testosterone とは正の相関を示すことが認められた.
以上より, ヒト精漿中hCG-βの産生は, spermatogenesis の過程と考えられ, spermatogenesis と密接に関係するものと考えられた.
また, 血清中と精漿中のhCG-βを比較すると, 血清中ではほとんどが測定不能の低値であり, 精漿中との関係も明らかとされなかつた. なお, 特殊疾患として, 睾丸腫瘍 (seminoma) 4例の血清ならびに精漿中のhCG-βを比較すると, 血清中では高値であるが, 精漿中では片側からの分泌がほとんどであるためか, むしろ低値であつた. このことは, 腫瘍組織のhCG-β産生増加に加え, 正常睾丸に存在する blood-testis barrierが, 腫瘍の増殖により破壊され, hCG-βが血中に流出することも, ひとつの要因になると考えられた.
精管結紮4例や, 正常者より採取した前立腺液中のhCG-βは, 無精子症とほぼ同じ1.5ng/mlであり. しかも, 精細管内に精細胞のほとんど存在しない klinefelter 症候群でも1.55ng/mlの値を示した. このことは, 精液中のhCG-βは, 睾丸より分泌されたものに, 前立腺よりの1.5ng/ml程度の量が加わつたものと推察される.
以上, 著者らの測定結果より, 精漿中hCG-βは, 前立腺および睾丸における spermatogenesis の過程から分泌されており, その値は睾丸機能の指標になりうるものと考えられた.

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