1989 年 80 巻 5 号 p. 711-718
腎細胞癌に対する血清 Basic Fetoprotein (BFP) の臨床的意義を検討すると共に血清 Immunosuppressive Acid Protein (IAP) との比較検討を行った. 対象は腎細胞癌46例で年齢は40歳から85歳, 平均56歳, 性別は男性31例, 女性15例である. Robson 分類に従えば, Stage I が10例 (22%), Stage IIが4例 (30%), および Stage IV が18例 (39%) と3者で大部分を占めた. 血清BFPの陽性率は54%で, 特に Stage IV での陽性率は72%と Stage が進めばより高率にかつ血清BFP値はより高値となった. 他方, 血清IAPを測定し得たのは34例でその陽性率は76%で特に Stage IV では79%とBFPと同様 Stage が進めば高率に, また, 高値となった. 血清BFPおよびIAPを同時に測定することで Stage IV 腎細胞癌症例の85%でいずれかが陽性となった. また治癒切除例におけるこれら2種のマーカーの術前後の変動を検討したところ, BFPは術前陽性例の92%が術後約1週間で術前に比べ低下し, 特に75%の例では正常値となった. 他方, IAPは術前陽性例の82%が術後低下したが正常値となったのは27%にすぎなかった. 症例数および観察期間は共にまだ十分でないが, 血清BFPは腎細胞癌の非特異的マーカーとして特に術後のモニタリングに有用である可能性が示唆された. さらに血清IAPとの Combination assay により診断率を向上させることが可能と思われた.