1996 年 87 巻 5 号 p. 815-821
(背景と目的) 最近の臨床現場では, 排尿に関する自覚症状を評価する際, 症状の頻度を問う International Prostate Symptom Score (I-PSS) が使用される場合が多い. しかし, symptom score が低いのにもかかわらず排尿状態を不満と感じている人がしばしば存在する. この場合, 症状の頻度のみでは評価できない何らかの自覚症状が患者の苦痛に結び付いていることが推測される. そこで,閉塞症状の程度と頻度のどちらがより本人の苦痛に結び付いているのかを検討した.
(対象と方法) 40歳以上の前立腺集団検診受診者739名を対象に排尿に関する自覚症状の評価を行った.
(結果)“排尿開始の遅延”,“排尿時間の延長”,“排尿時の腹圧”および“尿勢の減弱”の程度あるいは頻度は, ともに苦痛度と相関を示したが, 頻度の方が程度よりも相関が高かった. しかし, 程度のみを自覚していてもそれが本人の苦痛に結び付く場合があったため, 症状の程度の評価が不満の原因の特定のために有用である症例も存在すると考えられた. また, 症状の頻度が“全くない”と回答した人でも, 程度に関しては比較的軽度ではあるが“症状あり”と回答した人が存在したことより, 程度の自覚の方が頻度の自覚に先立ち出現すると推測された. すなわち, 症状が軽微なうちは, これを程度の変化としては認識できるが, 頻度の変化とまでは表現できない可能性が示唆された.
(結論) 症状の程度の評価が必要な症例も存在すると推測された.