日本泌尿器科学会雑誌
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精子凍結保存10年間の経験
その現状と問題点
齋藤 和男鈴木 康太郎野口 和美小川 毅彦武田 光正穂坂 正彦湯村 寧岩崎 晧佐藤 和彦菅野 ひとみ木下 裕三窪田 吉信
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キーワード: 精子, 凍結保存, 癌患者
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2003 年 94 巻 4 号 p. 513-520

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抄録

(目的) 精子凍結保存の現状と問題点を明らかにする.
(対象と方法) 精子凍結保存のために過去10年間に当科受診した14歳から51歳の152人の癌患者と2人の良性疾患患者を検討した.
(結果) 化学療法開始前に受診した精巣腫瘍患者35人の中でWHOの精液所見の基準値を満たしたのは7名 (20%) であったが, 1例を除き凍結保存できた. 化学療法後に転移あるいは反対側に再発した精巣腫瘍患者2名の精子も保存している. 白血病や悪性リンパ腫患者で化学療法前に受診した20例中10例 (50%) はWHOの基準値を満たし, すべて凍結保存できた. 一方, 化学療法開始後に受診した69例中9例 (13%) はWHOの基準値を満たしたが, 29例 (42%) は無精子症であった.
その他の悪性腫瘍を含めると, 未化学療法の癌患者のうち96.1%は精子を保存可能であったが, 化学療法後の患者では45.3%であった.
凍結保存精子を使用した4例 (4%) では妊娠例は得られていない. また1例は患者死亡後に凍結精子の使用の申し出があった.
精子を凍結保存した癌患者108例の中で転帰の明らかな32例の生殖細胞性腫瘍患者では死亡例はなかったが, 非生殖細胞性腫瘍患者60例中13例 (22%) は死亡している.
萎縮精巣の対側に生じた精巣回転症患者の精子を凍結保存した.
(結論) 化学療法開始前ならば原疾患に関わらず大部分の患者では精子を凍結保存できる. しかし, 化学療法後に受診した患者の半数は凍結保存することができず, 若い癌患者に対しては診断後速やかに精子凍結保存についての説明がなされなければならない. また, 凍結保存方法やその使用に関しては未解決の問題が多く今後の検討が必要である.

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