日本泌尿器科学会雑誌
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『ヒポクラテス全集』における治療に関する記述, 外科治療, とくに尿路結石の治療について
斉藤 博
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2006 年 97 巻 3 号 p. 551-560

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抄録

(目的)『ヒポクラテス全集』の治療に関する記述を研究した.
(方法)『ヒポクラテス全集』(ラーブ版, 大槻版, 今版) の治療の記述を計量言語学的に検討し, コス学派とクニドス学派とで治療の優先度を比較した.
(結果) 治療の記述は2,687節で, 内科治療2,319 (86%), 外科治療は368箇所 (14%) であった. 2,687中, コス学派の記述は1,023 (38%), クニドス学派1,261 (47%), 学派不明は403 (15%) であった. 内科治療は薬剤, 食餌法, 入浴, 燻蒸, 運動, 走行, 散歩, 罨法が多かった. 外科治療は骨折と脱臼に対する伸展, 整復, 切開, 焼灼, 瀉血であった. 食餌法, 運動, 走行, 散歩, 伸展, 整復, 瀉血はコス学派がクニドス学派より高頻度, 薬剤, 入浴, 婦人科疾患に対する燻蒸, 切開はクニドス学派が高頻度であった (X2検定でp<0.01). 尿路結石に対する治療としては, 薬剤, 食餌法, 入浴, 温罨法, 腎結石患者に対する切開術であったが, 膀胱切石術の記述はなかった. ヒポクラテスは薬で治らない病気はナイフで治すと“宣誓”で述べていた. また, 彼は戦場での傷の外科を習得する者は, 軍隊に加わらなければならないと強調していた.
(結論)『ヒポクラテス全集』では, 多数の内科治療が記述されていたが, 外科治療も重視されていた. ヒポクラテスは“宣誓”で初心医師の入門時の戒めとして, 尿路結石に対して, 経験のない治療を禁じたのであって, 外科治療を禁じたのではない.

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