視覚の科学
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インタビュー
川守田拓志先生へのインタビュー
三橋 俊文
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2019 年 40 巻 3 号 p. 61-63

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Abstract

本号では北里大学医療衛生学部視覚機能療法学 准教授の川守田拓志先生へのインタビューをお届けします。川守田先生は大変活発に研究や学会活動をされておりますのでみなさんご存知だと思います。来年の眼光学学会を主催していただくこともあり,今回インタビューをお願いしました。先生の視能訓練士としての枠組みを超えた,眼科学や光学のエンジニアリング的な研究がどのようにして可能になったかをこのインタビューで明らかにしたいと思います。

Q: 視能訓練士になることや眼光学を専門にしようと思われたきっかけ等を教えてください。

A: 今回,僭越ながらインタビューいただきまして,ありがとうございます。視能訓練士になるきっかけですが,実はお恥ずかしながら,当時は将来についてあまりピンときていなかったので努力が足らず,第一志望に夢破れ,なんとなく医療系を目指そうかなとふと思ったのがきっかけでした。ですので視能訓練士になりたいと強い意志を持って入学する本学の学生や,医師,エンジニアになるためにずっと努力して達成されてきた方々などを見ると今でもすごいなあと思ってしまいます。ただ,私自身,視覚情報科学や光には興味がありました。子どもの頃,今も販売されていますがNewtonというサイエンスマガジンが大好きで学校の図書館でよく読んでいたのですが,古くなって廃棄される予定の号を図書館のお姉さんから内緒でもらっていました。小学校の作文では,博士になりたいと書いた記憶があります。それらの興味と医療系の職業とが重なった視能訓練士に関心を持ったのだと思います。視能訓練士は,自覚と他覚とを分けながら視覚情報処理能力や光学特性を客観的な形で精度良く取り出し,評価あるいは訓練することができるとても特殊で価値のある職業だと思っています。

その中でも眼光学を学びたいと思ったのは,やはり魚里 博先生(当時,北里大学医療衛生学部教授。現在,東京眼鏡専門学校校長)の影響が一番大きいと思います。眼光学は,あくまで私のイメージですが,いろいろな科目がある中で,最もすっきりした感じがあったのと,人の視覚情報処理のキーになっているのではないかと思っていました。あとは,多くの学生が苦手科目だったので,あえて逆を行きたいというひねくれた性格もあったかもしれません(笑)。

Q: 卒業から研究を始められるぐらいまでや留学のストーリーなどをいただければと思います。

A: 大学院進学へのきっかけについては,当時,本専攻には魚里先生や向野和雄先生,新井田孝裕先生,庄司信行先生,藤山由紀子先生などがいらっしゃり,進学の重要性や眼科の魅力について教えていただきました。また,半田知也先生(現在,本学教授)が大学院生だったので,身近な存在として色々と相談にのっていただき,将来目指すことについて話ができたことも大きかったと思います。大学院に進学してからは,魚里先生が指導教授でしたので,眼光学について基礎から学び,研究機器にも囲まれていたので,恵まれた環境でじっくりと研究ができました。あまりイメージないかもしれませんが(笑),在学中に10数か所の病院で視能訓練士として眼科検査や視能訓練ができたことも大きな糧となりました。

あとは,在学中に魚里先生からご紹介いただいたアメリカ合衆国ツーソンにあるアリゾナ大学のJoseph M. Miller先生(眼科主任教授),Jim Schwiegerling先生(現在,College of Optical Sciences教授)から学ぶ機会をいただきました。ここでは,短期でしたが集中的に小児眼球光学系と光学シミュレーションを学ぶことができたのと,研究室にこもって計算ばかりしているような天才から疫学研究で常に動き回っているような努力家まで幅広い専門の先生に会えたのがよかったです。雨があまり降らず,星や夕焼けがきれいな街だったので,それらを見ながらぼんやりと将来を考えて,そこが本格的に眼光学を学んでいくことを決めた瞬間なようにも思います。

在学中,「Research is the door of tomorrow」,「やるなら,中途半端でなく徹底的にやる」,という魚里先生からの言葉は,これからも大事にしなくてはと思っています。

Q: 最初から教員・研究者になることを目指されていたでしょうか。

A: こういったいろいろな方々との出会いや,修士課程2年,博士課程3年という少し長い大学院生活の中で思ったことは,せっかく長い時間仕事をするなら,好きなことを仕事として選んだ方がいいんだと思えるようになりました。私にとって,大学教員は,好きなことができるイメージを持っていて,ざっくりと言えば実際その通りでした(笑)。今でもこの仕事を選んで正解だったと思っています。

また,2008年に教員になってからは,当時医学部主任教授の清水公也先生(現在,山王病院アイセンター(眼科)センター長)から多くの課題とチャンスをいただき,眼光学を実践し研究する機会に恵まれました。清水先生からは,とても厳しく指導いただいたのですが,なぜか清水先生に褒められたい!と思える魅力的な先生でした。医師,視能訓練士,基礎系教員問わず,みんなでモノビジョンやHole ICLなどの研究を取り組んだことで,能力の向上を実感した時でもあり,よき思い出でもあります。「Simple,Speed,Satisfaction」,「遊びは難しい」など多くの言葉をいただき,そして何より大きいのは,研究を行うことや発表を行うこと,論文を書くこと,そのものが目的になっていた自分の間違いを気付かせてくれたことだと思います。最も大切なのは問いで,何を何のために行うか,だから何が言えるのかという問いを大切にすることの意義を学ばせていただきました。

Q: 現在の主なお仕事について教えてください。

A: 教育については,「わかりやすい眼光学」を実践していきたいと考えています。講演会でアンケートをとると,眼光学は,重要だという認識はあるものの,その印象は難しく苦手という回答が多くでてきます。学生にアンケートをとっても残念ながら苦手科目ワースト3に入ってしまいます。まずはこのイメージを払拭すべく尽力したいと思っています。また,現在,私たちの専攻は,半田知也教授(専攻主任),石川 均教授,神谷和孝教授,榊原七重講師,藤村芙佐子講師,浅川賢講師,岩田遥助教,干川里絵助手,私の計9名の教員で主な教育を行っています。本専攻の学生は,1学年約30名です。おかげさまで臨床現場や企業などの就職先でいい方に受けていただきましたと言ってもらえることも多く,さらにそのような臨床や企業の現場のニーズにあった学生を増やしていけるようしっかりとした教育を行っていきたいです(すいません。面接みたいになりました・笑)。また,最近では,自分が教員になってからの卒業生が臨床現場,企業,学会・研究会等で活躍する姿をみたり,彼らに会えたりすることも大きな楽しみの一つですね。

研究については,最近おもしろいことが多すぎて,完全に広がってしまっているので,3年以内には集中させていきたいと考えています。現時点での関心領域としては,眼光学と自動車運転など,日常生活と医療の境界に関する研究を進めていきたいと考えています。眼光学と心理物理や周辺視野など視覚情報処理,産学連携や一般市民団体との社会活動の連携など,境界を作らず縦横無尽に楽しく仕事をしていきたいです。

Q: 今後,眼光学はどんな方向に進んでいくといいでしょうか

A: 私が北里大学を卒業して16年くらい経過しましたが,眼科臨床機器はかなり進化して,ノウハウは,蓄積されているように思うのですが,卒業時と比べると少し眼光学分野の勢いが弱まってきているように感じています。とても危機を感じます。ですので,まずは眼光学に興味を持っていただく方々が増えていけばと願っていますし,微力ながらいい方向に進むよう頑張っていきたいと思います。自動車や電子ディスプレイ,照明関連企業等,視覚が関与する異分野の方々によく言われるのは,大事な学問なのになぜ専門家が少ないのでしょうか?というものです。眼光学は,もっと異分野にも応用可能な素晴らしい学問なように感じています。基礎的な学問的追究から実学まで幅広い人材とテーマが集まってさらに盛り上がっていくといいなと思います。今は,とにかくいろいろな分野から仲間を増やしたいですね。

Q: 2020年の眼光学学会の魅力について教えてください。

A: この度,光栄にも2020年9月5日(土),6日(日),神奈川県横浜市西区みなとみらいにあるパシフィコ横浜 アネックスホールにて第56回日本眼光学学会総会を開催する運びとなりました。

学会のテーマは,「FOCUS 2020」です。ご参加いただいた方に一つでも“FOCUS”するポイントを作っていただけたら,身近な分野として興味を持って“FOCUS”していただけたらという願いからこのテーマに決めました。私自身は,ご参加いただく皆様にとって意味のある学会となるよう準備に“FOCUS”したいと考えています。特別講演は,三橋俊文先生(日本眼光学学会理事長,筑波大学)にお願いしています。世界中で当たり前になったオートレフラクトメータや収差計の開発ストーリーから変遷,未来についてお話をいただけるものと楽しみにしております。また,現在,様々な場所でアンケートをとり,眼光学に関する現場のニーズを収集しています。その結果からテーマや企画案を作成し,実りある学会にしたいと考えています。わかりやすく,親しみやすい眼光学の実践に向け鋭意準備してまいります。

2020年7~9月は,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会があり,特に9月6日(日)は,パラリンピック最終日です。オリンピック・パラリンピック直後の学会と覚えていたければと存じます。現在,会場のある“みなとみらい”の街中は,2020年に向け建設ラッシュとなっています。学会開催時までには,びっくりするくらい多くの複合施設,ホテル,レストラン,観光スポットが完成します。より新しく魅力的になった“みなとみらい”の顔をぜひ見にいらしてください。本日は,インタビューありがとうございました。

図1.

交通安全・防災・サイエンス複合型社会活動イベント「つながる,見えるサイエンス」参加スタッフとの写真

図2.

第56回日本眼光学学会総会ポスター(案)

 
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