視覚の科学
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本・論文紹介
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2021 年 42 巻 4 号 p. 109-110

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本の紹介

CORNEA (Fifth Edition). Mark J. Mannis, Edward J. Holland著 ELSEVIER

角膜専門医にとってバイブル的な名著である。Mark J. MannisおよびEdward J. Holland大御所2人により編集されており改訂第5版を迎えた。Volume One(Fundamentals, Diagnosis and Management)とVolume Two(Surgery of the Cornea and Conjunctiva)の2部に分かれており,解剖・生理学から始まり診断,治療に至るまで全てが網羅されている。約2000頁にわたる重厚感に溢れる教科書で持ち歩きはできないが,本棚に並ぶと格調高く,とても格好がいい。私にとっては何でも調べられる百科事典のような存在である。開くたびに角膜の奥深さを感じる。

最新版では前眼部OCTなど最新機器を用いた検査法の解説や応用法も多数盛り込まれており,医師だけでなく検査員,研究者,エンジニアにも有用な内容であると言える。Volume 2の手術編では世界的に著名な先生方が自身の得意とする手術手技に関して寄稿しており,本邦からも複数名のサージャンが名を連ねている。特に木下茂先生,小泉範子先生が執筆されている培養角膜内皮移植の項は,我が国が誇る技術が紹介されており大変誇らしい気持ちになる。値も張るが是非揃えておきたい一冊である。

(平岡孝浩)

論文紹介

Suzaki A, Koh S, Maeda N, et al. Optimizing correction of coma aberration in keratoconus with a novel soft contact lens. Contact Lens and Anterior Eye. 2021; 44(4): 101405.

Coma収差を選択的に矯正する特殊度数プロファイルを持つ事で,円錐角膜の不正乱視を矯正できる特殊ソフトコンタクトレンズ(CL)に関する研究。

レンズ中心部の厚さを増して不正角膜をマスキングする特殊トーリックソフトCLは既に存在するが,本報告はレンズ厚みに頼ることなく屈折のComa収差を選択的に矯正する特殊度数プロファイルを有するソフトCLの研究である。筆者らは乱視用ソフトCL様に数種類のComa矯正量と軸を持つ規格化されたレンズセットで不正乱視を矯正できる可能性を追求している。前報告で明らかとなった瞳孔中心に対するレンズの偏心量が大きいほど矯正効果が低下する欠点を改善するため,下方偏心を補正するよう光学部を上方偏心させた改良デザインを用い,円錐角膜患者26例34眼で臨床評価した。その結果,改良前よりも改良後の方が有意に矯正効果は高くなることが認められた。

(洲崎朝樹)

Hartle B & Wilcox LM: Depth magnitude from stereopsis: Assessment techniques and the role of experience. Vision Research, 125, 64–75, 2016

ベテラン被験者と未経験者がステレオスコープで知覚する奥行き量の違い

ミラーステレオスコープに短い垂直線分を2本横に並べて呈示し,0.5°までの比較的大きな両眼視差(幾何学的には6 cm程度の奥行きの差に相当)を与えたときに知覚される奥行き量を,心理物理実験の被験者経験豊富な人と初めて体験する人で比較した。ベテラン被験者は幾何学的予想に近い奥行きを知覚したが,初心者が知覚した奥行き量はそれよりもかなり小さかった。両眼視差から幾何学的に予想される奥行き量に応じて線分の見かけの長さを変えることにより,遠近法的な手がかりの矛盾を解消すると初心者でも幾何学的予想に近い奥行きを知覚した。

昔からあるような話ですが,経験の効果をきちんと測定した報告例は意外とありません。また,古典的な実験の内容や大先生のコメントが詳しく紹介されており,勉強になります。最後に「経験を積むと,両眼視差に注意を向け,それ以外の手がかりが無視できるようになる」とまとめられています。そういうことなんだろうとは思いますが,よく考えると,どのようなプロセスでそのような学習が進むのかよくわかりません。今後の重要な研究課題だと思います。

(佐藤雅之)

Patel PR, Imperio R, Viehland C, Tran-Viet D, Chiu SJ, Tai V, Izatt JA, Toth CA, Chen X; BabySTEPS Group: Depth-Resolved Visualization of Perifoveal Retinal Vasculature in Preterm Infants Using Handheld Optical Coherence Tomography Angiography. Transl Vis Sci Technol. 2021; 10(9): 10.

HandheldプローブOCTAによる未熟児網膜症の血管イメージング

OCT用のコンパクトプローブ開発の進歩により,handheldプローブによって三次元OCTとOCT-A撮影が可能となってきた。この論文では,開発された高速走査が可能なhandheldプローブにより,未熟児網膜症(ROP)の血管構造を深さ分解して可視化している。ガルバノメーターを使用しつつ小型化するための光学設計を採用した,高速走査が可能な小型プローブを用いている。網膜血管の発達とROPの血管病変を深さ分解して画像で理解する方法となっていくであろうと考えられる。今後,小型でポータブルな走査プローブの開発により,様々な用途でのOCTの応用が進んでいくものと思われる。

(巻田修一)

Maryse Lapierre-Landry, Joseph Carroll, Melissa C Skala: Imaging retinal melanin: a review of current technologies. Journal of Biological Engineering 2018; 12: 9

人眼網膜色素上皮細胞には,リポフスチンとメラニンという重要な2種類の色素が含まれる。このうちメラニンは抗酸化作用および光吸収により,視細胞と網膜色素上皮細胞の恒常性維持に重要な働きを持つと考えられている。しかし網膜色素上皮メラニンの研究論文はリポフスチンに比べると圧倒的に少ないのが現状である。これは網膜色素上皮メラニンを生体計測する方法が確立されていないのが一因と思われる。本総説は生体人眼における網膜色素上皮メラニン計測方法をまとめた貴重な解説である。紹介している技術は,カラー眼底写真による主観的評価,眼底リフレクトメトリー,近赤外自家蛍光,光音響イメージング(photoacoustic imaging),通常OCTの強度変化,偏光感受型OCT,光熱OCT(photothermal OCT)と多岐にわたっている。近年,国内でも偏光感受型OCTの研究が盛んになりつつあり,網膜色素上皮メラニンに興味のある研究者には必読の総説と思われる。

(三浦雅博)

Tetsuya Horiuchi, Toshifumi Mihashi, Sujin Hoshi, Fumiki Okamoto, Tetsuro Oshika: Artificial accommodating intraocular lens powered by an ion polymer-metal composite actuator. PLoS One. 2021 Jun; 2021.

手前味噌であるが我々の研究を紹介させていただく。産総研の堀内哲也研究員が精力的に進めている能動型の調節レンズの開発で,現在も基礎研究を継続中である。従来はソフトアクチュエータ,ion polymer metal composite(IPMC)アクチュエータで豚眼の水晶体を変形させて調節量と収差を小型波面センサーで評価していたが,本研究では水晶体をシリコンレンズに,素材をフレミオンにアップデートして機能を確認した。生体安全な素材だけを使ったことにより調節量が0.5 Dと小さかったが,対策を施した収差に関しては減少した。

(三橋俊文)

 
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