視覚の科学
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総説
特集:コンタクトレンズ 特殊コンタクトレンズの進化と未来
岡島 行伸
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2021 年 42 巻 4 号 p. 92-95

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要旨

本邦ではコンタクトレンズ不耐性を示した症例に対して角膜移植が選択されることが多い。しかしながら世界中には多くの特殊コンタクトレンズがあり,近年素材,技術の進歩によりその有用性についての多くの報告がある。今回は特殊コンタクトレンズの中でもハイブリッドレンズhybrid contact lens(HCL),強膜レンズScleral lens(ScCL)についてその特性や実際の処方方法について,また今後特殊コンタクトレンズに期待される眼光学的な付加機能などについて解説する。

Abstract

Corneal keratoplasty is often the treatment of choice for cases of contact lens intolerance. However, there are many special contact lenses available around the world, and recent advances in materials and technology have led to many reports on their usefulness. We will discuss the characteristics and prescription methods of hybrid contact lens (HCL) and scleral lens (ScCL) among special contact lenses, as well as the additional ophthalmologic functions expected of special contact lenses in the future. The anticipated additional ocular functions of specialty contact lenses will also be explained.

1. はじめに

現在本邦で承認がある特殊コンタクトレンズは輪部支持型角膜形状異常眼用コンタクトレンズのみであるが,世界中には多くの特殊コンタクトレンズがある。近年素材が進歩したことによりその有用性についての多くの報告がある。今回は特殊コンタクトレンズの中でもハイブリッドレンズhybrid contact lens(HCL),強膜レンズScleral lens(ScCL)について解説する。また近い将来これら特殊コンタクトレンズに期待される眼光学的な付加機能などについても解説する。はじめに海外でHCLとはhard contact lens(HCL)ではなくhybrid contact lens(HCL)のことである。本邦で使用しているhard contact lensはRigid Gas Permeable(RGP)lensと表現することが一般的であるため注意が必要である。本稿でもこちらで表記とする。

初期で軽度の円錐角膜の場合は,メガネやコンタクトレンズで対処することができる。しかし,進行すると不正乱視の増加によりメガネやソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズでは視力矯正が困難となり,また装用感の悪化などのコンタクトレンズ不耐性は患者の負担は計り知れないものがある。これらコンタクトレンズ不耐性に対して本邦では角膜移植が選択されることが多いが患者にとって角膜移植は大きな負担となる。海外ではこのような症例に対して角膜移植より前に特殊コンタクトレンズを処方することが多い。そこで今回ハイブリッドレンズ(Hybrid contact lens:HCL)ならびに強膜レンズ(Scleral lens:ScCL)を中心に特殊コンタクトレンズについて解説する。しかしながらこれらのレンズは国内未承認であるため,誰しもが処方できるわけではなく患者には十分なインフォームドコンセントならびに医師の裁量のもと処方することが必要となる。

2. 各種特殊コンタクトレンズ

2.1  ハイブリッドレンズ(Hybrid contact lens:HCL)について

HCLについて解説する。HCL(図1)はレンズの中心がRGPコンタクトレンズ,レンズの周辺部がソフトコンタクトレンズ(SCL)という構造である。光学部位にRGPレンズを用いることで不正乱視が矯正され良好な視界を得ることが可能で,また周辺部がSCLのため装用感がよいレンズである。最初に作られたHCLは,酸素透過性の低さによる角膜低酸素症,構造的不安定さによるレンズの破損が見受けられたものの,近年では中心部のRGPレンズは酸素透過性の高い素材,周辺部にハイドロゲル素材を用いることによりこれらの問題はほぼ解決されて有効性,安全性,快適性が向上している。レンズ着脱方法も特殊であり,装用時にはレンズに生理食塩水を満たして装着し,外すときには専用スポイトを用いる。レンズをフィッティングする際には,RGPレンズ部とSCL部をそれぞれに検討する必要がある。RGPレンズ部ではセンタードームの高さ(lens vault)が50 μm程度の涙液クリアランスを必要として,またSCL部のスカート(Skirt)の曲率も適切になるように調整して処方する。またフィッティングに際しては高分子量のフルオレセインナトリウムを使用するなど特殊である。

図1

ハイブリッドレンズの全体像:直径は14.9 mmで中心部がRGP素材で周辺部はハイドロゲル素材のSCLである。

HCLの視力改善効果に対しては本邦からの報告はなく,海外からHarbiyeli1)らは円錐角膜眼,角膜移植後の乱視眼,角膜外傷による不正乱視眼,放射状角膜切開後にHCLを使用し,視力改善ならびにレンズ不耐性の改善を報告。Assadpour2)らは視力改善と角膜高次収差の改善を報告。Kloeck3)らは円錐角膜眼にもちいて視力の改善を報告しているが,フィッティングの成功率には,円錐角膜の突出度,突出部位にコーンの形態と有意に相関していると報告。このようにHCLは角膜不正乱視に対して視力改善ならびに装用感の改善をみとめるものの重度円錐角膜,急性水腫後などの突出度の大きい症例ではカスタマイズがほとんどできないため,処方には注意が必要ではないかと思われる。また今後,長期的に角膜や眼表面に与える影響についてはいまだ未知であるためさらなる研究が必要である。

2.2  強膜レンズ(Scleral lens:ScCL)について

ScCLはスクレラルレンズともよばれる。ScCLが開発されたのはRGPレンズ,SCLよりも前に開発されたものである。その起源は古く100年以上の歴史がある,はじめてのScCLはガラスで作成された。その後1930年代にはポリメチルメタクリレート(Poly Methyl Methacrylate:PMMA)素材によるレンズが完成したが数時間の装用でも角膜は極度の酸素不足に陥った。その後1983年に初めてEzekiel4)らがRGPレンズを用いたScCLが誕生し,その後多くの有用性が報告されている。ScCLの適応は,進行した円錐角膜や屈折矯正術後の不正乱視,全層角膜移植後の患者,極度の強度乱視,スティーブンス・ジョンソン症候群や移植片対宿主病,眼類天疱瘡による重症ドライアイなどの眼表面疾患を有する患者にも有用とされている。強膜は非常に知覚が低いためレンズを支持するのに適しており,RGPレンズ不耐性を示した患者に有用である。またレンズの特徴としてレンズの接地面が角膜ではなく強膜であるため装用感がよく,ScCL後面と角膜の間を中央部クリアランスと呼び,そこに生理食塩水が満たされるため不正乱視の矯正に有用である。装用方法にも特徴がありレンズを生理食塩水で満たして装用し,専用スポイトで外す。ScCLは直径が12.5–15.0 mmのcorneo-scleral lens,15.0–18.0 mmのmini scleral lens,18.0 mm以上のLarge scleral lensに分類される。一般的なScCLは直径の大きなLarge ScCLをさす。近年Large ScCLとかわらない視力矯正効果があるが操作性の良い,直径がひとまわり小さなMini ScCLが注目されている5)。特にアジア人は欧米人にくらべて瞼裂が狭いことなどから今後Mini ScCLの有用ではないかと思われる。

2.2.1) 強膜レンズ処方例

実際に経験した症例を示す。20歳男性,視力0.5(0.7 × −1.0 D),角膜最大屈折力が63 D(ジオプター)の重度円錐角膜に対してRGPレンズを装用するも痛み,異物感が強く装用困難であった患者にScCLを処方した。ScCL処方方法として,はじめにトライアルレンズを選択する。各社メーカーによって違うが,今回はTimeXL(Menicon®)レンズのScCLについて解説する。TimeXLレンズはCentral optic zone, Mid-periphery limbal zone, Scleral landing zoneからなる大きなお椀型のレンズで,素材はMeniconZ(Dk/t値163)で高い酸素透過性素材を使用している(図2)。はじめにトライアイルレンズとしてトライアイルレンズ高さ(sagittal height:Sag),レンズと強膜の接地面角度を選択する。尚,レンズ直径(16.0 mm),レンズ度数(なし)は固定である。トライアルレンズ選択方法として,前眼部Swept Source Optical Coherence Tomography; SS-OCTを用いて患部の角膜高さSagを角膜間距離13 mmで測定(Sag 13)し(図3),そこに中心部クリアランス(約200 μm)を加えたものの近似値でトライアルレンズSagを選択する。本症例ではSag 13が3120 μmと中心部クリアランス200 μmで3320 μmとしてトライアイレンズSag 3400を選択した。また接地面角度は(Flat meridian)38/(steep meridian)44°をファーストトライアルレンズに選択する。次にトライアルレンズを実際装用してSpectral-domain OCT;SD-OCTの角膜モジュールを用いて中央部クリアランスならびに周辺部輪部クリアランスの量を測定,つぎにレンズ周辺部で強膜とレンズ接地面部の接地具合を観察しレンズエッジの浮き上がりを調整する(図4)。最後にスリットランプを用いてフルオレセイン染色で中心部ならびに輪部クリアランスを観察する。また強膜接地面部に不均一な圧迫がないか,また結膜血管の途絶の有無を確認する。レンズ度数はオーバーレフラクトメータを用いてレンズ度数を調整し度数を決定する。またBase Curve(B.C.)は角膜形状解析装置から得られたBest fit sphere(BFS)を,レンズの直径はhorizontal white to white(WTW)を参考に決定する。本症例において実際処方したScCLはレンズの高さ3400 μm/B.C. 7.4 mm/レンズ接地面角度34–40°/レンズ度数−5.0 D /直径16.5 mmであった。強膜レンズ上の視力(1.0)でスリット診察上で結膜血管の圧迫等はない。実際の強膜レンズを装用後の前眼部写真(図5),ならびにSS-OC前眼部でのOCT写真を示す(図6)。

図2

TimeXL強膜レンズの全体像

図3

前眼部SS-OCTを用いてトライアイルレンズの高さを決定する。本症例ではSagittal height 13 mmは3.12 mmであった。

図4

トライアルレンズ装用後SD-OCTの角膜モジュールを用いて,左:中央部クリアランス(本症例では200 μmであった)ならびに右:レンズ周辺部でレンズエッジの浮き上がりを確認する。

図5

実際に処方した強膜レンズを挿入時の前眼部写真 

    レンズの高さ3400 μm/B.C. 7.4 mm/レンズ接地面角度38–40°/レンズ度数−5.0 D/直径16.5 mmを処方した。強膜レンズ上の視力(1.0)で結膜血管の圧迫はない。

図6

実際に処方した強膜レンズを挿入時の前眼部SS-OCT写真で中心部クリアランス180 μmと良好であった。

2.2.2) 強膜レンズ装用時の残余収差について

円錐角膜眼での収差の特徴は,上下非対称性から軸に対して非対称な収差を表すコマ収差,特に垂直コマ収差が異常となる6)。また球面収差などその他の収差も増加するため全高次収差も増加するといわれている6)。実際に本症例での波面センサー(KR-1W:トプコン社)を用いて実際の円錐角膜眼での裸眼と強膜レンズ上での角膜高次収差ならびに強膜レンズ上でのコンポーネットマップを示す(図7)。本症例での中心4 mmの角膜高次収差は,裸眼で2.423 μmであったがScCL上では0.067 μmと大幅な改善をみとめた。湖崎らは6)波面収差をもちいてハードコンタクトレンズ上でのコンポーネントマップにて角膜高次収差はコマ収差以外の係数で正常パターンになり,コマ収差は,内部収差に裸眼と逆パターンで(270°)の異常を認め,角膜後面由来の高次収差が残存して,眼球のコマ収差も残存していると推測できると報告している。円錐角膜のハードコンタクトレンズによる矯正は角膜前面の形状を矯正するもので角膜後面由来の不正乱視がのこると報告7)。今回ScCL上での測定では湖崎らのハードコンタクトレンズの時と同様の変化が観察された。ScCLはハードコンタクトレンズと同様の視力矯正効果があるものの角膜後面由来の不正乱視はかわらずのこる可能性が示唆された。今後の特殊コンタクトレンズには残存した角膜後面を矯正する付加機能が加わることにより患者のさらなるQOL;Quality of lifeの向上が期待される。

図7

強膜レンズ上のコンポーネントマップ(KR-1W トプコン社)

3. おわりに

これらのレンズが,今後コンタクトレンズ不耐性に苦しんでいる患者のQOL向上に新たな選択肢として今後期待できる。

利益相反

利益相反公表基準に該当なし

文献
 
© 2021 日本眼光学学会
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