視覚の科学
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色の見え,認識される色と色表現の関係性
篠森 敬三
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2022 年 43 巻 3 号 p. 78-82

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1.はじめに

人間が見ている色はクオリアの性質を持つとされる1。そのため色の感覚を言語で表現することは容易ではない。例えば先天盲の方に「赤」の感覚を言語で伝達することは極めて困難で,赤がもたらす印象,例えば暖かいや活動的な,情熱的な等を説明するか,あるいは赤い物体,例えば血液や信号灯,郵便ポストなどを説明することになるが,どの程度伝わるか疑問である。また以下で述べるように,原因やその影響度の違いもあり個人間の色の見え方は多様である。そのため特定の個人がその人の色の見えを他者に表現する方法も限定される。

光の強度だけを表現するのであれば,1次元表現で程度の差を示せばよいが,色の明るさでさえ,単純な光の強度とは異なる。L,M錐体からの入力と大細胞系の神経回路網(Magno-cellular pathway)に基盤を置く輝度(luminance)信号は,形の知覚や運動視,立体視などの情報基盤となる一方,明るさ(brightness)感には色信号の寄与があるため,高彩度の色刺激は同じ輝度の白色刺激より明るく見える2。さらに反射物体では,光量子量あるいはエネルギー量準拠のスケールではなく,同じ照明下にある他の物体との相対的な明るさを表現する反射率準拠の明度(lightness)により表現され,白色の完全反射面が常に最大明度となる。

3色覚者は3種の錐体を用いて色情報を処理するため,色は3変数(次元)で表現される。色彩工学ではCIE1931 XYZ色空間上の色度座標(xy)と輝度値L(cd/m2)やCIE1976Luv色空間上の色度座標(u'v')と輝度がよく用いられる。またPC上の色はRGB値(RGB)で表記する。これらは色光や色表面の物理的特性を表現する一方,色の見え方についての情報は提供しない。

色の見え方を反映した表現方法は,色相(hue),彩度(saturation),明度(lightness)であり,マンセル表色系の場合はHue,Value(明度に対応),Chroma(彩度に対応)で,マンセル色票は例えば(7.5GY 5/7)のように表記される。これらは定義された視環境(照明条件,背景灰色刺激,観察角度)で見たときの多数観察者の平均値をもとに規格化している。従って背景色や照明光を変えれば同じ色票でも色の見えは異なる1

以上の事は比較的良く知られている。次のステップとして,本稿では,ある観察者がその人個人の色の見え方,色の認識を,どう表現し,それは色の見え方に対し正確な記述か,について検討する。色の見え方を表現する一般的な手法を紹介し,その表現は個人の色の見えや認識している色を正確に表現するかの関係性について考察する。

2.色の見え方を表現する手法

色の見え方を単純に表現する方法として,色の名称(色名)を答えることが考えられる。ただし例えば錆色など,任意の色名を使用するとその対象色が個人間で差もあるため,データ集計が困難となる。そこで異なる言語間でも色の概念を共有できる基本11色(白,黒,赤,緑,黄,青,茶,橙,紫,桃,灰)3を用いて,そのいずれかで回答するのがカテゴリカル・カラーネーミング法である。黄緑では黄か緑のいずれかで回答するため,判断が安定しないことがあり,各試行で色名が変われば色カテゴリの境界的な色とされる。この方法では多数の色票が同じカテゴリに属する。また色を1つの色名で表現するのでは無く,白,黒,赤,緑,黄,青の組合せで表現する反対色理論に基づくカラーネーミング法(カラースケーリング法)4もある。この場合,色み量と白み(と黒み)量をまず分割し,その後に色みを赤,緑,黄,青の組合せで表現するのが一般的である。黄緑は,(合計10点方式の時)白み3,黒み0,緑み4,黄み3などと表現される。この方法では,1ステップの大きさにもよるが,色の違いが見分けられる色票は異なる数値で表現される。これらカラーネーミング法は,色の見え方の表現により近い方法である。

一方,色を色名で表現するのではなく,テスト刺激の色を参照刺激の色と合わせるマッチング手法も用いられる。もともとはメタメリックマッチから来ている。これは分光反射率や分光放射輝度など波長分布が異なる2色が,見た目で色も明るさも同じに見える現象である。物体の色をPC上のRGB値で表現する際,明らかに分光分布は異なるのに,同じ色の見えにできるのはこの原理を使っている。色の見え方からはやや離れ,色彩工学的考え方に近い手法である。5節で述べるペーパーマッチ手法のように,直接的には異なる色同士を比較できる長所もある。

3.2色覚者の色の見え推定と色の表現

色の見えと色の認識が異なる可能性があり,色の見えと色の表現の相違が最も顕著な形で起こり得るのが2色覚者の場合である5。LあるいはM錐体に対応するL,Mオプシンのいずれかの遺伝情報が存在せず,錐体の種類が実質的に2種となるため,刺激色に割りあてられる変数次元が2次元になる。これに対応し色彩理論6からは,赤緑反対色経路の応答がなく赤と緑の色の見えが生じない(赤緑色覚異常)と考えられる。しかし,2色覚者は日常生活において赤緑を含め様々な色や色が表す意味を3色覚者と同様に理解しており,色票のカラーネーミング実験でもそのことが裏付けられている。色表現は,3色覚者とほぼ同じ一方,色の見えではやはり赤緑の見えはないと考えられる点で,両者の顕著な相違が生じている(図1参照)。

図1

色彩理論6に基づく2色覚での見え方模擬(a)3色覚,(b)1型2色覚,(c)2型2色覚

この点を明らかにするため,著者は印象を表す意味語を用いた双方向性検証法7を,2色覚観察者で実施した8。通常は,色の印象を,各種意味語(のどかな,活動的な等)のそれぞれのあてはまり度の点数から評価し,全体を因子分析等で解析するセマンティック・ディファレンシャル(SD)法で計測する。双方向性検証法では,SD法に加え,意味語の持つ印象に対して,より適合する色を,呈示される一対の色から選ぶ意味語色評価法も行う。全ての色組合せで一対比較を行うと,よく選ばれる色と選ばれない色とに分かれる。全ての他色との組合せ勝率を,正規分布仮定からZ値に変換しその大小を比較して,各意味語へのあてはまり度を全刺激色について求めた。この手法により双方向で評価結果が一致する意味語と一致しない意味語に分離される。色も同様に分離可能となる7

2色覚者の結果8は,SD法計測では2色覚者は3色覚者とほぼ同じで,色に対する印象に大きな違いは見られない。一方,意味語色評価で選択される色では,3色覚者の様な色相環を反映した2次元的分布は見られず,明度や黄青反対色応答による1次元的分布となった。色を見て印象を答えるときには,色名をもとに経験から獲得した3色覚者と同様の一般的色印象を共有しており,これは色の見えからでなく,2色覚での色の見えからまず赤や緑などの色名を推定して認識し,そこから経験的に獲得された3色覚者と同様な色の印象を引き出すと考えられる。一方,意味語を色で評価する場合は,色の見えに基づいて意味語印象を色表現するため,赤や緑のように茶色系統に見えるという点で見え方がほぼ同じで印象も地味な色を用いずに,白や黄色を目立つ色,活動的な色として用いたことになる。これら結果は,2色覚者において明確に色の見えと,色の認識や色の表現が分離していることを示している。

4.高齢者の色の見え推定と色の表現

加齢に伴う水晶体の光学濃度増加を主とする眼光学媒体全体の光学濃度増加は,加齢縮瞳によって水晶体中心部での光透過比率が増える効果もあり,顕著に網膜上の分光放射照度を変化させ,特に短波長光領域の光量が大きく失われる5。これにより短波長領域に感度ピークを持つS錐体の角膜上照度での感度のより大きい減少が予想されたものの,増分閾値による感度測定では3錐体とも同様の10年間で約0.13 logの単調な感度減少がみられた9。これはS錐体信号がその神経経路や脳内でより増幅されていることを示唆する1011。一方,錐体信号に関わる生体ノイズの加齢による有意な増大はないものの12,この様な増幅作用はS/N比を悪化させるため,低い錐体信号時での色弁別は加齢とともに悪化し,特に60歳以降,S錐体による色弁別がより大きく悪化する13。図2に加齢による眼光学媒体濃度増加14のみを模擬した物理的な刺激色の変化を示す。

図2

眼光学媒体濃度14の加齢による濃度増加の影響(a)20歳を基準とした場合(無補正),(b)70歳の眼光学媒体濃度適用

加齢に伴う水晶体濃度の増加や錐体感度の低下は,色弁別力低下をもたらすものの,色の見えは安定であるとの様々な結果が得られている15。眼光学媒体の加齢変化により,白色表面が若年者にとっては黄色に相当するまで変化するにも関わらず,高齢者の白色点16はほぼ不変である。色票に対するカラーネーミング結果17では,色相はほぼ不変の一方で,高齢者は白黒に対する色み量の評価点が減少する彩度低下が見られた。これらは上述のS錐体信号増幅の効果による色のバランス保持であると考えられる5一方,長期的錐体順応効果により黄色の見えに対応する反対色信号[k×(L+M)−S]のうちL,M錐体の信号部分が減少するとしても説明は可能である。

しかし実際には年齢ともに彩度が低下し鮮やかさが失われる17ことも事実で,これはカテゴリカルカラーネーミングでは検出されにくい変化である。若年観察者において輝度コントラスト刺激に加え低彩度色刺激群だけが呈示される場合,見えの色の彩度を強化するため,輝度の信号を抑制して色と輝度(白黒)のバランスを,色を強化する方向に変化させる効果があり,fMRI脳計測結果から実際の輝度信号低下も確かめられている18。高齢者での特定の色相の色だけでは無く,色信号減少により全ての色の彩度が低下するような変化でも,一定の範囲で色,輝度信号のバランス調整が行われていると期待される。

一方,高齢者のフラッシュ光に対する輝度応答(輝度インパルス応答)では,応答速度維持のために加齢による信号量の時間的加算(積分)が起こらず,輝度応答振幅の強度が加齢により低下したままの60歳以上観察者が40%であったのに対し,残りの60%の高齢観察者では応答波形の抑制部分がなくなって高速光変化への反応が難しくなるという変化が観察されている19。これは限界まで若年者と同程度の時間応答特性を維持しようとはするが,輝度信号の低下の悪影響が顕著となると,信号強度の維持を優先することを示す。この類推から,加齢によって輝度信号が低下する事から,色の見えでも同様に複雑な再バランス調整が行われる可能性も考えられる。先天2色覚の場合と類似する点として,加齢による色の変化は,白内障等によるものでなければ長期的変化で色バランスの調整等が徐々に行われ,色の認識が適切に追随して調整されると考えられる。

5.色恒常性現象との関連

通常は白色系の照明(例えば白色昼光)のもとで観察している時に知覚される物体の色は,照明光が色光になった場合(例えば夕焼けの空)に,物体反射光としては照明光の色を帯びる。そのため物体表面の色の見えも照明光の色に変化するはずであるが,実際には白色昼光下(もともと)の色を知覚する。色の知覚が変わらないという点で,色恒常性と呼ばれる現象である20。2色覚者や高齢者の場合の色の見えの場合と異なり,照明変化は短時間で起こり,また復元もするため,色覚メカニズムは迅速かつ可逆的に調整(順応)されなければならない。

色恒常性については多くの実験が行われている。色照明光の下で観察中の目標刺激の色を,色を持たない中性色(灰色)に色調整する実験21や,照明光の色の強さ(彩度)を変えて照明光変化に気がつく限界(閾値)を測定22する実験は,色の見えとその表現に関わる問題を回避する手法といえる。ただしそれら手法で明らかに出来る色恒常性は,中性点や閾値測定のため限定的となる。

よく用いられる手法は,白色昼光(色温度6,505KのD65標準光源が用いられることが多い)と照明色光により同じ色パターン刺激を別々に照明し,その刺激を左右の異なる眼で同時に観察する(haploscopic法)か,片方ずつ順番に観察する(継時法)方法である。多くの場合,白色照明下のパターンの中心においた参照刺激の色に対して,色光照明下のパターン中心にあるテスト刺激の色を変化させて合わせるというマッチング課題を行う(非対称色マッチング)(図3)。この際,どの様に色を合わせるかという判断基準において,色の見え方とその表現(マッチング)の問題が生じる。この問題に対しArendら23は,アピアランスマッチとペーパーマッチという2つの判断基準を導入した。アピアランスマッチとは可能な限り刺激間の色を合わせるもので,周辺色パターンからの色誘導はあるもののテスト刺激の色度や輝度はほぼ参照刺激と一致する。一方,ペーパーマッチは両刺激が同じ紙から切り出されたと考えてテスト刺激の色を合わせるもので,当然,色照明光の色の影響を考えて色度を変化させる。この場合,知覚される色の見え自体は異なるものとして照明光の影響を考えるわけである。

図3

色恒常性実験ハプロスコピック法刺激例(左眼観察)白色昼光(D65)照明下,(右眼観察)A光源(白熱球)照明下

完全な色恒常性とは,同じ紙(同じ反射率)となることなので,刺激色の表面反射率と照明色光の放射輝度から,完全色恒常性となる理論的マッチング色が計算できる。白色照明下の参照刺激の色度点と理論的マッチング点の色度点とのCIE1976 u'v'色度図上の距離をaとし,観察者のマッチング点と理論的マッチング点の色度点距離をbとすると,色恒常性指数II=1−b/aで求められる23。1に近いほど完全色恒常性に近い。ただし3色覚者での色恒常性指数24は,赤,緑,青,黄色照明で,刺激12色平均でそれぞれ0.55,0.34,0.35,0.12であり,色恒常性はそれほど強くないことが判る。また緑照明の場合,緑(マンセル色相2.5G)が0.8程度なのに対し,青紫(同7.5PB)で0.1程度となるなど,刺激色によって大きく異なる。

マッチング手法ではなく,カテゴリカルカラーを答える手法で,色恒常性を調べる実験も行われている。同じ紙かどうかは問わず,単に色照明下のテスト刺激だけを見せてその刺激色のカテゴリカルカラーを問う。ただこの場合,実際の色票を使った実験であるため,暗黙的に(白色光下での)色票本来の色を問うペーパーマッチ判断となっている。240枚のValue 5/のマンセル色票を用い,同じカテゴリカルカラーとなる複数枚の色度点重心から計算した色恒常性指数25は,赤,緑,青,黄色照明で0.82,0.86,0.27,0.46となる。ただし一部色票で例外的に指数が負となる場合があるのを除去すると,青,黄色照明では0.68,0.75となり,いずれの照明色光でも強い色恒常性を示す。また同じ刺激と色照明に対して,非常に短い照明光順応時間(5秒)を使用した場合26でも,赤,緑,青,黄色照明で色恒常性指数は0.67,0.80,0.62,0.53に減少する程度であり,色恒常性は短時間でも十分に生じる。観察者を2色覚者とした実験をA光源(オレンジ系の色を持つ白熱球照明)で行った結果27も,黄色やオレンジのカテゴリカルカラー色票平均で約0.6に減少する程度で,それ以外の色では0.8を上回る高い色恒常性指数を示した。つまり2色覚者では色の見えは異なるが,3色覚者者と同様に白色昼光下の(本来の)色を推定できることになる。

色恒常性については,特に実際の照明を使わない(図3の様な)照明シミュレーションでの実験の場合には照明推定効果は微弱であり,照明色光に対する各錐体独立の順応により錐体感度が減少(赤照明の場合はL錐体の感度が最も低下)するフォン・クリース型(von Kries type)順応と呼ばれる効果によって,照明色光の色の影響を低下させることで成立するとの考え方もある5。ただし錐体順応だけで色の見えが決まるのであれば,色の見えそのものにおいて既に色恒常性が強く生じているはずであり,アピアランスマッチとペーパーマッチの結果がほぼ一致するはずであるが,実際の結果はそのようにはなっていない(図3参照)。

色恒常性現象を,アピアランスマッチではなくペーパーマッチの実施,あるいは色票に対するカテゴリカルカラー応答の観点から捉え直すと,実際の正確な色の見えからだけでなく,色の見えからの推定を含んだ認識される色とその表現を含めて成立すると考えられる。日常生活の中で白いノート紙はいつでも白であるとみなす際,既にこれらの間の複雑な関係性を無意識的に使っていることになる。この点については現在,著者の研究室でさらに実験と検討を重ねているところである。

6.まとめ

色の見え,認識される色と色表現の関係性を明確にすることは新しい課題であり,包括的な知見を提供するまでには至っていない。一方,例えば2色覚者が赤や緑の色票を選んだり印象を語ったりする場面では,単純な色彩理論と矛盾するなどの状況もあるため,様々な場面で色の見え方と,色の認識や表現との関係に留意する必要がある。今後とも進展が期待される分野である。

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© 2022 日本眼光学学会
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