視覚の科学
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論文紹介
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2022 年 43 巻 3 号 p. 83-84

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Jones PR, Ungewiss J, Eichinger P, Wörner M, Crabb DP, Schiefer U.: Contrast Sensitivity and Night Driving in Older People: Quantifying the Relationship Between Visual Acuity, Contrast Sensitivity, and Hazard Detection Distance in a Night-Time Driving Simulator. Frontiers in Human Neuroscience 16:1-10, 2022

コントラスト感度と低コントラスト視力は夜間の運転時の視機能を把握する上で重要な指標となることを示す貴重なエビデンスと思われた。

Jones PRら1によって報告されたこの論文は,健常高齢ドライバーにおいて,コントラスト感度が夜間危険検知距離を,従来の高コントラスト視力と比較してどの程度予測できるかを評価した。結果,コントラスト感度と低コントラスト視力はともに運転性能と有意に関連したが(両者p<0.01),従来の高コントラスト視力は有意ではなかった(p=0.10)。コントラスト感度と低コントラスト視力は,従来の高コントラスト視力にはない方法で,夜間の危険検知能力を予測した。そのため,特に高齢者において,夜間運転への適性を評価するための有用な指標となる可能性があると結論づけた。

(川守田拓志)

Heimann F, Barteselli G, Brand A, Dingeldey A, Godard L, Hochstetter H, Schneider M, Rothkegel A, Wagner C, Horcath J, Ranade S. A custom virtual reality training solution for ophthalmologic surgical clinical trials. Advances in Simulation, 2021; 6 (12): 1-7.

医師が硝子体の内部に薬物を送達するための眼内インプラントの挿入および薬物の補充手順を学べるVRシミュレータによるトレーニング効果を検証する。このVRシミュレータは鉗子や注射器,メスなどの器具を模したハンドピースの取り換えだけでなく,強膜を切開するときに生じる強膜組織の靭性を物理演算から再現しアクティブに触覚フィードバック,切断面の正確なグラフィックレンダリングが実装される。このシミュレータによるトレーニングは医師が自身のパフォーマンスを別の視点から観察し学習することを可能にする。経済的な負荷が大きい臨床試験に対するサポートになるだけでなく,新しい医療分野や手術への応用範囲を拡大する可能性がある。

(棚橋重仁)

Kamiya K, Hayashi K, Tanabe M, et al.: A Nationwide Multicenter Comparison of Preoperative Biometry and Predictability of Cataract Surgery in Japan. Br J Ophthalmol. 2022;106(9):1227-1234.

日本白内障屈折矯正学会による国内多施設共同研究として,白内障手術を施行した2,143例2,143眼を対象として,術前バイオメトリー・最適眼内レンズ(IOL)度数計算式を比較した。その結果,全国12施設間に有意な地域・施設間差異を認め,特にIOL度数計算で重要となる眼軸長,角膜屈折力,前房深度は差異が著明であった。全国的にはBarrett Universal II式はSRK/T式に比較して有意に近視側に予測しやすく,絶対誤差は有意に少なかった。特に長眼軸長眼における予測性が優れていたが,SRK/T式が有意に良好であった施設も散見された。術前バイオメトリーは一定の地域・施設間差異が存在し,自施設におけるデータの蓄積と各施設における最適化の重要性を示唆された。

(神谷和孝)

Xiaofan Jianga: Electrical responses from human retinal cone pathways associate with a common genetic polymorphism implicated in myopia. The Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 2022;119;e2119675119.

①近視は錐体視細胞におけるON経路とOFF経路の不均衡に関連する。

②近視を診察している臨床家,研究者

近視と関連する遺伝子多型であるrs524952が,対立遺伝子の両方にない個体,一つある個体,両方ある個体,で網膜にどのような変化がおこるのかは不明であった。

遺伝子多型の組み合わせのみに差があり,屈折度も眼軸長も差がない3群を対象に,網膜電図を測定した。結果,暗所での反応に差はなく,明所の反応は多型が両方ある個体で減弱していた。波形解析から,錐体細胞OFF経路のシグナル伝達に変化がおこっていた。

今回の結果からは,錐体OFF経路と近視の関連が示唆されたが,先天性停止性夜盲はON経路の異常で強度近視となる。おそらく特定の時期におけるON経路とOFF経路の均衡の変化が近視発症にかかわっているのだろう。

(稗田 牧)

Rutstein RP, currie DC: Topical Review: Retinally Induced Aniseikonia. Optom Vis Sci 2019;96:780-789

黄斑上膜(ERM)では,大視症による不等像視で眼精疲労を訴えるケースが散見される。本総説は,ERMなど,網膜に由来する不等像視の疫学,病因,診断法,治療法について言及している。ERMの70%程度で大視症の訴えがあり,5%以上の不等像視が33%に見られたという報告がある。光干渉断層計(OCT)による検査では,黄斑部が盛り上がっているのが特徴で,視細胞密度が高くなっていることが示唆される。光学的治療法としては,サイズレンズがある。レンズを厚くして,レンズ前面のカーブをSTEEPにすることにより,数%の不等像視が改善可能である。右眼のERMで4%の大視症のある症例で,左眼にサイズレンズ(後面に累進多焦点加工)を処方することで,眼精疲労が改善したと報告されている。本邦でもサイズレンズの製造が望まれる。

(不二門尚)

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