視覚の科学
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総説
不同視,不等像視の眼光学 アップデート
不二門 尚
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2022 年 43 巻 4 号 p. 86-90

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要旨

不同視とは両眼の屈折力に差がある状態で,先天的な要因と環境の影響を受ける要因がある。不同視を放置しておくと,両眼視機能の低下や斜視が出現し,QOLを損なう可能性がある。本稿では,近視性不同視の頻度,加齢に伴う変化,および屈折性および軸性不同視の矯正方法について概説する。網膜上膜による不等像視(大視症)の評価法と,不等像視を矯正するためのレンズサイズの原理も追記した。

Abstract

Anisotropia is a condition in which there is a difference in refractive power between the two eyes, and there are congenital factors and factors influenced by the environment. If anisometropia is left untreated, deterioration of binocular vision and manifestation of strabismus may occur, impairing QOL. In this article, I will outline the frequency, age-related changes, and methods of correcting refractive and axial anisometropia for myopic anisometropia. Evaluation methods for aniseikonia (macropsia) due to epiretinal membrane, and the principle of the size lens to correct aniseikonia are added.

はじめに

不同視は,両眼の屈折度に差がある状態で,先天的な要因と環境により影響を受ける要因がある。近年,小児においてもスマートフォンなどのデジタルデバイスの使用時間が増加しており,これに伴い,近視の頻度の増加のみでなく,悪い姿勢でのデジタルデバイスの視聴により,不同視の増加も懸念されている。

不同視を放置すると,両眼視機能の低下,斜視の顕在化などが生じ,QOLを阻害する可能性がある。本項では主として近視性の不同視に関して,不同視の頻度,経年変化,不等像視の矯正法などを概説する。

Ⅰ.不同視(anisometopia)の定義,頻度

1.不同視の定義

屈折検査において,左右眼の屈折度の差(不同視差)が2 diopter(D)以上ある場合を本邦では不同視という1。国際的には一般に,不同視差が1D以上の場合に不同視と定義付けられている2

2.不同視の進行,頻度

不同視の頻度は幼児期に比較的高く,その後青少年期にいったん減少するが,成人になるとまた増加すると報告されている2(図1)。青少年期での不同視の減少は,この時期に,正視化現象(成長に伴い,屈折度が軽度の遠視から正視に収束する現象)と,両眼視が発達するためと考えられている。この時期に斜視や弱視があり,両眼視が妨げられると,不同視差が拡大する場合がある。8歳頃以降,近視が増える時期に不同視の頻度は増加するが,成人になると不同視の頻度,程度は安定化し,60歳過ぎの白内障年齢になると,再び不同視の頻度と不同視差は増加する。

図1

不同視の頻度と不同視差の大きさの,年齢による変化。

(近視,遠視,弱視を含む85,000名を対象としたもの,文献2を改変)

棒グラフは,不同視の頻度(%),点線は,不同視差の大きさ(D)。

不同視の頻度は年長児で一旦減ったのち,青年期に増加し,成人になってからは一定の頻度を保ったのち,高齢者になって増加する。不同視差の大きさも同様の変化を示す。

6-11歳児に対して,近視進行予防の研究が行われたCOMET studyでは近視性不同視に対して13年間フォローアップスタディが行われ,不同視差は平均0.24Dから0.49Dに増加したと報告されている3。他の報告も含め,正常の両眼視機能を持つ小児においては,成長に伴う不同視差の拡大は0.5D以下である。

3.両眼視不良の小児における不同視差の拡大

小児において,両眼視不良例において近視性不同視の拡大が報告されている2。我々も,内斜視の術後に長期にフォローした51症例において,近視性不同視が拡大することを報告した4。手術時年齢は,4.5±3.7歳 平均フォローアップ期間は5.0±2.2年であった。不同視差は,手術前の0.36±0.46Dから最終受診時0.98±1.3Dに拡大した。10症例において,不同視差が2D以上に拡大した(図2)。この群では4灯試験において,2°の指標が融像できたのは1例(10%)のみであったのに対して,不同視差が,2D未満であった群(n=41)においては,13例(32%)が2°の視標が融像可能であった(P<0.05)。これらの結果は,両眼視機能(融像)不良例において,近視性不同視が拡大する可能性があることを示唆する。

図2

内斜視術後の症例で,不同視差が2D以上に増加した10症例(このうち9例は両眼視不良)の,術後年数と不同視差の経過(文献3を改変)。

両眼視機能の不良な症例では,不同視差が2Dを超えて増加する場合もあることが示された。

Ⅱ.屈折性不同視,軸性不同視と不等像視

1.定義

眼の屈折値を決める要素として,角膜の前後面の曲率,前房深度,水晶体の前後面の曲率,水晶体の屈折率,眼軸長等があるが,眼軸長以外の要素で屈折に左右差をきたす場合を屈折性不同視という。眼軸長の左右差に起因する不同視を軸性不同視という。

不同視を光学的に矯正した結果,左右の眼で感じられる像の大きさに差が生じた場合を不等像視(aniseikonia)という。

2.不等像視の検査法,許容限度

不等像視の検査に用いられる,New Aniseikonia Testでは,赤緑眼鏡で両眼を分離して,左右眼に投影された半円の直線部分の長さを直接比較して,同じ長さと感じられる場合の円の大きさの拡大/縮小率で,不等像の程度を測定する(直接法)。不等像視の精密な検査法として,不等像視差を立体視差として評価する方法を用いた,Spatial Eikonometerがあったが,製造中止となっている。佐々木らは,同様の空間覚を用いた方法で,タブレットを使用した不等像視を測定する方法を開発し,報告している5。空間覚を用いた方法に比べ,直接法は,不等像の程度を過小評価する傾向があるという報告がある。不等像の融像限界は4-7%と言われている。

3.屈折性不同視の原因となる病態,矯正法

代表的な屈折性不同視は,角膜屈折矯正手術や眼内レンズ挿入術を行って,目標度数よりずれた屈折値となり,左右差が出た場合に生じる。核白内障の進行により,屈折値に左右差が出た場合も屈折性不同視となる。屈折性不同視を眼鏡で矯正すると,不等像視を生じる。コンタクトレンズ(CL)での矯正では,不等像視は少ない5

矯正眼における焦点のあった像の大きさと,裸眼でぼけた像の大きさの比は,SM(spectacle magnification)で表される。厚の薄いレンズの近似では,SM=1/(1-he×F)(he:レンズの後面と入射瞳の距離(m),入射瞳の位置は,角膜頂点から3 mm後方の前房内にある,F:レンズの度数(D))となる。眼鏡では,頂点間距離(レンズの後面と角膜表面の間の距離)が12 mmに設定されている。このため,凸レンズでは像の拡大効果が,凹レンズでは縮小効果がもたらされる。

4.軸性不同視とKnappの法則

矯正眼での焦点の合った網膜像の大きさと,標準的な正視眼の網膜像の大きさの比はRSM(relative spectacle magnification)で表される。軸性近視の場合,RSM=1/1‐(hp‐f)Fであらわされる。ただしhp:頂点間距離,f:眼の前焦点と第一主点の距離:(標準的には16.7 mm),第一主点と角膜頂点の距離は1.3 mm,F:レンズの度数。これらをあわせると,頂点間距離を約15 mmになるように眼鏡をかければ,網膜像の大きさは変わらないことになる(Knappの法則)。軸性不同視を眼鏡で矯正すると,光学的に不等像視は少ないが,コンタクトレンズ(CL)での矯正では,光学的に不等像視は大きくなる6。これが,軸性近視は眼鏡で矯正すればよいという理論的な根拠となっている。

5.視細胞間距離を考慮した軸性不同視の矯正

近年,補償光学眼底カメラが開発され,人眼の錐体密度を測定できるようになった。正視の正常人の眼底で,中心窩より3°乳頭側の部位の網膜を,補償光学系による補正をして撮ると,錐体のモザイクが示される(図3A)。近視眼で視細胞間の距離と眼軸長の関係を見ると,眼軸長が長くなるに従って,視細胞間の距離が大きくなることが示された7(図3B)。視細胞間の距離が延びると,網膜像の大きさが同じでも分解能が落ちることになる。このことは強度近視眼で視力低下することの一因となる。Knappの法則では,軸性近視による不同視では眼鏡による矯正を行うと,左右眼の網膜像の大きさはほぼ等しく,不等像はほとんど生じないことになるが,実際は視細胞の間隔が近視眼では伸びているので,この因子も考慮する必要が生じることになる。

図3

補償光学眼底カメラによる錐体像,および錐体間距離と眼軸長および屈折度との関係

正常眼の耳側2度における錐体のモザイク(A)。錐体間距離は,眼軸長および屈折度と相関した(B)(文献6を改変)

Ⅲ.不同視に対する眼鏡矯正とコンタクトレンズ(CL)による矯正

近視眼では,視細胞間の距離が延びているので,網膜像の大きさが同じでも,近視眼では小さく感じられるため,実際には軸性の近視性不同視の矯正にも,眼鏡よりもCLの方がよいことが多い。ただし,小児の軸性不同視の場合は中枢神経系の適応能力が高いため,眼鏡で3~4Dの不同視の矯正は可能である。一方屈折性の不同視(片眼の無水晶体眼など)で,不等像視の限界(4-7%)を超える場合には,CLによる矯正が必要になる。

Ⅳ.網膜性不等像視とサイズレンズ

近年黄斑上膜で,大視症を訴える症例が増えている。黄斑上膜による大視症は,網膜が収縮するため,黄斑部の視細胞密度が高くなり,網膜像の大きさが同じでも,脳では大きく感じられるためと考えられている。(図4A)。進行した黄斑上膜に対しては,硝子体手術が行われるが,術後,変視症は改善しても,大視症は改善しにくいと報告されている8。大視症では,不等像視による眼疲労が生じる場合があるが,光学的な不等像視と異なり,コンタクトレンズでは改善しない。

図4

黄斑上膜における大視症のメカニズムとサイズレンズ

A:黄斑上膜では,網膜の収縮に伴い視細胞密度が高くなることにより,患眼では健眼と網膜像の大きさが同じでも,脳では大きく感じる(仮説)

B:黄斑上膜による大視症を訴えた症例のOCT像

左眼では,黄斑部の肥厚が見られる

C:処方したサイズレンズの設計図

健側の右眼に,4%像を拡大するサイズレンズを処方した

網膜像の大きさを変える目的で,サイズレンズが用いられることがある。サイズレンズによる拡大効果は,眼鏡レンズによる網膜像の拡大効果のうち,shape factorによる拡大効果により得られる。M=1/(1-tD1/n)(t:レンズの厚さ,n:レンズの屈折率,D1:レンズ前面面の曲率)9。通常患眼で感じられる像の拡大をバランスするために,健眼にサイズレンズを適応して,像を大きくする方法をとる10

サイズレンズを処方した75歳男性の1例を示す。眼疲労があり,ゴルフのパター時の距離感がつかみにくいという訴えがあった。変視の自覚はなく,視力は両眼(1.5)であった。OCTでは左眼に黄斑上膜と,中心窩厚の増加を認めた(図4B)。不等像視用trial lens set(Chadwick Optical Inc.)による検査では,左眼に5%の大視症を認めた。右の像を4%拡大すると,両眼視しやすいということで,装用テストを経て,遠近眼鏡にサイズレンズ(右+4%)を組み込んだものを特注した(伊藤光学工業)(図4C)。右のレンズが重くて傾きやすいが,慣れると両眼視できるということであった。左右のレンズの重さの違いによる眼鏡のフィッティングにおけるバランスの悪さの改善が今後の課題である。

おわりに

近視性の不同視差は,加齢とともに増加する傾向がある。増加の程度は両眼視機能が良好な場合は0.5D程度で少ないが,両眼視機能不良の場合は3D程度に増加する場合もあるため,眼鏡処方は両眼視機能維持のためにも必要と考えられる。軽度の不同視は,老視年齢になった場合,モノビジョンに移行できれば問題ないが,優位眼の優位性が強い場合は固視交代ができず,眼精疲労をきたす場合もあることに留意すべきである。黄斑上膜は,大視症による不等像視をきたす場合があるが,通常の眼鏡やCLでは矯正できない。サイズレンズを用いると,両眼の融像は可能になるが,レンズの重量の左右差によりフィッティングに問題が生じることに留意する必要がある。

利益相反

利益相反公表基準に該当なし

参考文献
 
© 2022 日本眼光学学会
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