2016 年 1 巻 1 号 p. 1-10
本稿では,近年のプロテオミクス技術の進歩およびその進歩が新しい疾患バイオマーカーの発見などを通してどのように医療に貢献できるかについて,これまでの我々の成果の内容をもとに述べる.近年のプロテオミクスの進歩の大きなブレークスルーは,定量プロテオミクスおよび翻訳後修飾プロテオミクス技術の開発である.定量プロテオミクス技術に関しては,安定同位体標識法の登場で,検体間のタンパク質の比較定量のみならず,Selected/Multiple reaction monitoring(SRM/MRM)法による検体中のタンパク質の絶対定量が可能になった.そのおかげで,種々の疾患について,網羅的なタンパク質バイオマーカー候補の探索と検証が可能になった.翻訳後修飾プロテオミクス技術については,特にリン酸化プロテオミクス技術の進歩により,薬剤による細胞内リン酸化シグナルへの影響を調べることができるようになり,今後薬効予測や薬剤不応性患者に対する新規治療標的タンパク質の開発に応用できると思われる.最後に質量分析計の臨床検査への応用について,技術面や行政面の課題について議論する.