2016 年 1 巻 1 号 p. 11-18
プロテオミクス技術により,細胞内シグナル伝達系の動態を解析することは,その構成タンパク質の細胞内含量が少ないため困難である.それゆえ,目的の成分を濃縮する方法とプロテオミクス技術との組合せが有効である.筆者らは,ラフトタンパク質の単離と蛍光ディファレンスゲル二次元電気泳動(two-dimensional fluorescence difference gel electrophoresis: 2D-DIGE)の組み合せにより,T細胞の初期応答が解析できることを示した.さらに,IMACによるリン酸化タンパク質の精製法を確立し2D-DIGEと組み合わせることにより,p38 MAPキナーゼ基質やERK基質を網羅的に同定することが可能となった.ERK基質は多様な機能を示すタンパク質群から構成されていた.その中には核膜孔タンパク質が複数含まれており,これらのリン酸化は核輸送タンパク質との相互作用を低下させ,核移行制御機構として関与することが判明した.