2024 年 9 巻 1 号 p. 1-11
がんは特有の代謝状態の可塑性と多様性を有しており,その理解には複数のオミクスデータを活用したシステム的な解釈が必要となる.メタボロミクスにおいては,がん細胞内外の量的変動を正確かつ網羅的に捉える分析技術が必要であるが,主要代謝物であるアミノ酸や有機酸などは化合物極性が高く,一般的な逆相系分析カラムを用いたLC-MS測定系では定量が困難なものが多い.そこで筆者は,アミノ基混合修飾ポリマー粒子充填カラムを用いたアミノ酸,ATP類,NAD類の同時測定系と2-ピコリルアミン誘導体化法とアダマンチルエチル基カラムを用いた有機酸測定系を駆使することで,同位体希釈法によるがん主要メタボロームの絶対定量を可能にした.3種の前立腺がん細胞株に応用し,Data Independent Acquisition(DIA)プロテオミクスデータと照合させると,細胞株特有の代謝システム変遷が見えてきた.本手法は,がんメタボロミクスの重要な分析基盤として活用が期待できる.