人口学研究
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論文
戦後日本の出生率変動 : 時系列分析によるアプローチ
加藤 久和
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1997 年 20 巻 p. 23-35

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抄録

本論文は,戦後わが国の出生率変動の時系列推移の特徴を明らかにするとともに,その構造変化について分析を行ったものである。近年,低下しつづけるマクロ出生率指標が単位根を有するか否かについて,様々な検定を行った結果,単位根を有するという帰無仮説は棄却できないという結論に至った。すなわち,出生率の低下は「確定的な」トレンドに沿った推移ではなく,長期的な確率的要素に大きく影響を受けていることが判明した。また,丙午以降,わが国の出生率の時系列構造に変化が生じていることをステップワイズ・チョウ検定により明らかにするとともに,こうした構造変化を考慮しても以上の結論は維持されることを示した。マクロの出生率推移,とりわけ合計特殊出生率に単位根が存在するという前提の上で,これを長期的な成分と短期的な変動に分解したところ,丙午において,いわゆる「出生届出の回避」が数パーセントあったことを示した。さらに,以上の帰結の応用として,わが国におけるButz-Wardモデルの適用可能性を検討したところ,家計所得や女子賃金といった経済変数と出生率の間に共和分の関係がないことから,これを否定する結論を得た。時系列分析による分析は,構造解析という点では限界があるものの,出生率の時系列特性を明らかにするという点では有用であり,本論文はその意味において,人口学的分析に新たな視点を提供したものである。

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© 1997 日本人口学会
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