人口学研究
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論文
シカゴ・モデルとイースタリン仮説 : 戦後日本の出生力変動への適用
大淵 寛
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1982 年 5 巻 p. 8-16

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抄録
出生力の経済学は,1960年のベッカー論文以来数多くの理論的,実証的業績を生み出してきた。実証の多くは理論仮説を支持したが,一部はそれに反する結果を与えた。本論の目的は,戦後日本の出生力変動をベッカーに発するシカゴ・モデルとイースタリン仮説との双方によってどの程度説明しうるかを検証することにある。われわれが援用したシカゴ・モデルは,有給で雇用された妻のいる家計といない家計とでは男子賃金の変化に対する出生力の反応が異なること,そして雇用された妻の出生力は女子賃金の変化に対して反応することを明示的に表現している。テストの結果は統計的にぎわめて良好に思えたが,パラメーターの符号条件が理論前提に合致せず,残念ながらシカゴ・モデルは棄却された。他方,イースタリン仮説の適用はほぼ成功裡に行なわれた。仮説が含意する世代間の相対的経済状態を表わす尺度として,4種類の変量が用いられた。1つはコウホートの相対的大きさであり,これは出生力とまったく異なる動きを示し,適用力はないと判定された。しかし,相対賃金にかかわる他の3つの変量は出生力の変動とかなりよく合致し,十分説明力をもちうると認められた。以上の結果から,ベビー・ブーム後の出生力低下,その後の低水準と第2次ベビー・ブーム,そしてとくに注目を集めている最近の出生力低下はいずれもイースタリン仮説によって,すなわち親の世代に対する子供夫婦の相対的経済状態の変動によって十分に説明される。そしてさらに,今後の出生力回復も石油ショック後のような低成長下では期待しえないことも示唆された。
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© 1982 日本人口学会
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