人口学研究
Online ISSN : 2424-2489
Print ISSN : 0386-8311
ISSN-L : 0386-8311
論文
最近のわが国出生変動の人口学的分析
伊藤 達也
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 5 巻 p. 25-33

詳細
抄録

戦後出生児数は,270万から160万の間で大きく増減している。1950年代後半から20年間2前後を推移していた合計特殊出生率は1978年以降再び低下をはじめ1980年に1.74となっている。ところで1970年代の夫婦完結出生児数は2.2児前後で大きな変化がみられなかった。また,出生の先行指数である結婚は,1950年代の出生減少による進学率上昇による前半の初婚確率低下すなわち未婚率の上昇がみられるものの,40歳代の未婚率が5%前後と安定しており,大きな変化がなかった。さらに出生の追加を中断させる離婚の危険も,離婚率上昇を相殺して余りある死亡率低下によって,結婚残存率は15年目で90%弱で安定していた。このように1人1人あるいは夫婦の人口再生産行動に大きな変化がみられないのに,年々の出生児数および合計特殊出生率に大きな変化がみられた原因を人口学的に解明するため夫婦出生率,結婚数(あるいは未婚女子人口と初婚確率),結婚残存率を主な変数とするマクロシミュレーションモデルを用いて,いくつかの計算をおこなった。その結果明らかになったことは次の点である。1)1960年代の出生児数の増加と合計特殊出生率の上昇は,20歳代前半の未婚女子人口の増加による初婚数増加によってもたらされた。2)1970年代の出生児数の減少は,出生児数が少なかった1960年代の女子が結婚と出産の適齢期に致達していることによる。合計特殊出生率低下は,夫婦出生率低下よりも,1950年代の出生減退による進学率上昇によるとみられる20歳代の初婚確率低下による未婚率上昇と有配偶率低下によるものである。3)将来夫婦の完結出生児が2児台,結婚率と結婚残存率が大きく変化しないと仮定すると,過去の出生変動によって,出生児数は80年代減少を続けるが90年代に増加に転じること,合計特殊出生率は1980年初期に上昇に転じ1990年代後半再び低下することがわかった。

著者関連情報
© 1982 日本人口学会
前の記事 次の記事
feedback
Top