人口学研究
Online ISSN : 2424-2489
Print ISSN : 0386-8311
ISSN-L : 0386-8311
論文
人口と開発 : わが国明治期とアジアの開発途上国との比較研究に関する再考察
小川 直宏
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 5 巻 p. 35-42

詳細
抄録
筆者は以前に行なった研究に於いて日本の経済発展の初期における経験を現在のアジアの開発途上国へどのくらい適用できるかについて,明治期経済の計量的フレームワークを駆使して分析を行なった。しかし本研究においては,以前に行なった研究とは反対の視点から分析が行われた。つまり,現在のアジアの開発途上国のデータを基にし,計量的フレームワークを構築し,それに基づき日本の明治期の人口学的変動を外生的に導入することにより明治日本の経済発展経験と現在のアジアの開発途上国の開発問題の類似点及び相違点を明らかにすることを試みたものである。ここで作られたモデルは,逐次型のモデルであり,1970年のアジアにおける14の開発途上国のデータを基にし組み立てられている。このモデル分析のシミュレーションの主要な結果の一つは,日本の経済発展の離陸期に見られた経済構造は,アジアの開発途上国で現在見られる経済構造と大きく異なることである。この研究結果は,多くの開発経済の専門家が過去において日本の経済発展の離陸を『驚異的』なものとしてきたことが妥当であることを示している。第二点としては,経済構造のみならず明治期の人口変動は現在の開発途上国のそれと相当に異なることが明らかとなった。明治期の人口変動のユニークさの主要因は死亡率の改善に見られる。これは明治日本においては,死亡の緩やかな低下が経済発展の過程として起こったものであるが,現在のアジアにおける開発途上国の死亡率低下は進んだ医学技術や公衆衛生の手段が先進国から導入されることにより達成されたという事実を反映している。第三の主な研究結果としては,明治日本の出生力低下のメカニズムは,アジアの開発途上国で現在見られる出生力低下のそれと極めて類似点が多いことが分析により示されたことである。この点に関して,明治期の出生変動に関する今後の研究はアジアの開発途上国での出生力低下の達成に大いに貢献する可能性があることを示唆している。
著者関連情報
© 1982 日本人口学会
前の記事 次の記事
feedback
Top