人口学研究
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論文
東南アジアにおける伝統的移動パターンとその残存
坪内 良博
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1984 年 6 巻 p. 23-30

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抄録

東南アジア人口が現在の民族分布をとって「定着」したのは比較的新しい時代のことである。ジャワ島,バリ島及び紅河デルタなどを除けば,東南アジアは著しく低い人口密度を原構造として有し,人口移動そのものが今日の状態をつくりあげた。移民の流入の減少にともない,移動は今日では往時に比して少なくなったが,なお,移動現象を無視して東南アジア社会を語ることはできない。この地域の人口移動の論述にあたって重要なのは,移動人口がそれぞれ固有のアイデンティを有していたことである。本稿ではこのような分断された状況下におけるこの地域の過去の人口移動パターンの特性を叙述し,それらがどのような意味で今日の移動パターンや住民の生活構造にかかわっているかを論ずる。本稿でとりあげた伝統的移動パターンに関する主な様相は以下の如くである。(1)「フロンティア」への移住 (2)派生村形成 (3)遠距離移民の重要性 (4)移住地における民族・種族的隔離 (5)周流的移動 (6)移住者の性比 上述の移動パターンは,現在でも都市への移動者における出身グループ別結束,出稼ぎ者の共同組織,国内における,あるいは国境を越えた合法的非合法的遠距離周流移動などにその傾向をとどめている。また性比においても人口流出の容易化と伝統的な男子中心移動の残存を背景に,村落在留者の性比が著しく低くなっている例などが一部でみられる。このように,普遍主義的移住行動の一般化へのきざしと並行しつつも,伝統的移住パターンは現代の移動現象の中に影をおとしているのである。

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© 1984 日本人口学会
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