論文ID: 2402001
福武直(1917-1989)は,著名な社会学者としてよく知られている。その学問的な功績の一方で,福武は1965年に創設された特殊法人社会保障研究所の参与に就任して以降,厚生省や総理府などの行政関係の仕事を多数引き受けており,婦人問題についての政策論議や婦人問題に関する大規模調査にも関わるなどした。1980年代には福武が男女共同参加型の社会システムへの転換を力説しており,少子化問題が行政課題となる以前に女性の社会進出への対応について踏み込んで論じていたことも注目に値する。本稿では,福武が書き残したものをはじめとする限られた文献資料に拠りながら福武と婦人問題の関わりを時系列で整理し,福武が“自営業者中心の農村的な社会が雇用者中心の都市的な社会に転換すると,家制度は通用しなくなる”という先見性のある議論をしていたこと,しかしながら,当時の政治的な現実は家族に多くを依存することで公的な福祉コストを削減する日本型福祉社会の建設が重視されたという経緯をめぐって,注目されるべき婦人問題論者としての福武直の存在を浮かび上がらせる。