抄録
生涯活躍のまち構想のもとに高齢者の地方移住が一つの施策として取上げられたことを背景に、その先駆的事例であり、移住者によるシニアタウンとして注目された福岡県の「美奈宜の杜」を対象にアンケート・ヒヤリングによる実態調査とワークショップを行ない、その結果を人口減少・少子高齢社会の「持続可能なコミュニティ」という視点で分析・考察した。
当地はサークル活動が盛んで健康な人が多く、これは生涯活躍のまち構想に沿うものの、開設20年を経た現在、高齢化の進行と交通・買物サービス、生活サポートの不備から多くの課題があることが明らかになった。しかし、そのようななかで住民主体の自治会、コミュニティ協議会、ボランティアをはじめとする地区社会福祉協議会の活動が各キーパーソンの結束のもとにコミュニティ運営・維持の基盤となっていることが見いだされた。
今後の持続可能なコミュニティ形成に関して、近年、中古物件販売等により子育て世代の増加傾向も確認でき、この流れのなかで多世代の街へと移行していくためには、ハード・ソフト両面からのアプローチ、管理会社の姿勢の転換や住民との協働が必要であると提案できる。また喫緊の課題である高齢者ケアに関しては、住民主体の活動基盤があるというストレングスを見いだし、移住者の街の住民特性を充分に捉えた上で、ケアリングコミュニティの概念を導入した新たな展開を図っていくことが望ましいと考察できる。