復興農学会誌
Online ISSN : 2758-1160
巻頭言
現場に根ざした復興農学会
溝口 勝
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2023 年 3 巻 2 号 p. 1

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抄録

今年4 月に初代生源寺眞一会長から私が会長を引き継ぐことになりました。 「復興農学」は,2011 12 月に私が科研費「時限付き分科細目」に新設提案した分野です。(溝口,2013)残念ながらその科研費枠は3年で消えてしまいましたが,福島で農業復興の研究活動をしていた研究者らが集まって2020 6 月の「復興農学会」の発足に繋がりました。 復興農学会は当初学会としての体をなしていませんでしたが,2019 12 月の復興農学設立準備会から20233月まで月1-2回のペースで事務局会議を開催し,復興と農業について議論を重ねました。約60回にわたるこれらの議事録は復興農学会のホームページ「事務局だより」に公開されています。この間, 2021 1 月に学会誌創刊号を発行し(年2回オンライン発行),2022 3 月に研究会・総会を開催するなど,設立から3 年が経過してようやく学会らしくなってきました。また,コロナ禍で活動が制限された時期であっても,各市町村の農家に会員が出向いて復興現場をZoom オンラインで紹介する現地見学会や各大学が取り組む復興研究を紹介する福島フォーラムなど,地道に活動を続けてきました。 私は2011 6 月以来、ほぼ毎週末福島県飯舘村に通っています。事故直後に飯舘村で会う農家さんたちは,原発事故を引き起こした東京電力や国に対して怒りをあらわにし,中にはもうダメだと諦めている人や,あるいは目に見えない放射能に恐怖感を持ち営農再開を諦めている人もいました。しかし,約年間の計画的避難を経に帰村宣言が出されると,農家さんたちの心が帰村を境に変化してきたように感じられました。帰村したからにはいつまでも失望していてはいけない,こんなことで諦めていたんでは天明の飢饉の時に生き残ったご先祖さんに申し開きが立たない,自分の子孫たちに原発事故の時に爺さんが諦めたから自分たちはいま違う場所に住んでいるんだなんて事は言われたくないとか,農家の後継ぎとしての責任感がにじむ言葉を何度も聞きました。農家さんには不屈の精神があり,そうした中でどうせやるならば夢や希望を持って自分にしかできないことをこの機会にやるんだという逞しい方の姿も見てきました。 そうした経験から私は復興のキーワードは「レジリエンス」ではないか思うに至りました。レジリエンスは日本語で回復力とか復元力と訳されますが,英英辞典では, (困難な悪い何かに遭遇した後に再び幸せに,うまくやっていける等 の能力)と定義されています。すなわち,悪いことに直面した時に「もうダメだー」といつまでも落ち込んだりせずに不死鳥の如く復活して幸福を取り戻す能力といえます(溝口,2023)。復興農学は発足当初,復興庁の 意味するに名称を変更することを提案したいと思います。 復興農学会の設立趣意書には,「専門性という縦糸で発展してきた農学分野を,地域性という横糸でつなぎ,現場の声に耳を傾けながら,被災地域で力強く生きる人々と大学・高専・研究機関等の専門家が一緒になって,未来を見据えた地域と農業の復興を果たし,日本および世界の農業・食料生産の持続的発展へと展開することが重要」と記載されています。また,本学会は研究者だけでなく農家や高校生など,多種多様な会員で構成することをめざしています。「農学栄えて農業滅ぶ」「農業のことは農民に聞け」。これは駒場農学校を卒業し,東京農業大学の初代学長となられた実学的農学者 横井時敬先生が,現場に貢献していない農学を嘆いた言葉です。 私は会長として,横井先生の言葉を肝に銘じて,復興農学会員が農業の現場に足を運び,復興の意味を考えながら農家と一緒に汗を流し,被災地域の方々と幸福を共有できるよう学会をリードしていきたいと思います

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