1996 年 42 巻 6 号 p. j143-j150
乳腺は哺乳類に特有の器官であり,その発達や分化はホルモンの支配を受ける.ミルクは子の食べ物であるため,妊娠の成立と共に乳腺の機能分化が始まり,出産と同時にミルク合成が始まる.乳腺は子がミルクを必要とする期間,必要な量を生産する.しかし,ミルクの生産を継続することはエネルギー的に親の負担が大きい.一定の期間が過ぎるとミルクの合成を停止させるように遺伝子のレベルでプログラムされている.役割を終えた乳腺細胞はアポトーシスにより乳腺から排除され,次の妊娠に備える.ミルクの合成にはプロラクチンが大きな役割を果すが,乳腺細胞側においてもプロラクチン刺激を調節する機構が存在する.これらの外的要因と内的要因により乳腺機能が調節される.乳腺機能はプロラクチン受容体遺伝子の発現レベルで調節される.哺乳類は長い進化の過程でミルク合成を調節する巧妙な機構を獲得した.現在の搾乳牛は泌乳能力を最大に発揮するように改良された.これらの調節機構を明らかにすることにより,搾乳牛において効率的な泌乳能力の改善が行える.