抄録
牛の新生子虚弱と胎盤機能との関係を明らかにする目的で,黒毛和種牛54頭を用い,人工授精(AI)後257日と271日の2回,血清中プロジェステロン(P),エストロン(E 1),エストラジオール-17β(E2)およびエストロンサルフェート(E1S)濃度を測定し,子牛の体重および活力との関係を調べた.54頭中,子牛の出生時体重が20 kg以下の13頭を低体重子群とし,他の41頭を正常体重子群とした.両群間で産歴,病歴,分娩状況および種雄牛の血統などに差はなかった.妊娠257日から271日にかけてP濃度は下降し,E1およびE2濃度は上昇した.P, E1およびE 2濃度は,妊娠257日のE2濃度で正常体重子群が低体重子群より高かった(P<0.05)が,他は両群間で差がみられず,子牛の体重との間に有意な相関はなかった.E1S濃度は,妊娠257日から271日にかけて両群ともに軽度の上昇が認められたが,低体重子群ではいずれの時期も正常体重子群より低く(P<0.01),子牛体重との間に正の相関が認められた(r=0.50,P<0.01).また,低体重子群産子13頭のうち8頭は虚弱で,この母牛のE1S濃度は妊娠257日から271日にかけて上昇を示さず低値のまま推移した.いっぽう,自力で起立吸乳が可能な子牛を分娩した5頭のE1S濃度は,妊娠271日に上昇を示し,虚弱子娩出例より高値であった(P<0.01).以上より,胎子の発育および活力は胎盤機能と密接な関係にあり、母体血中のE1S濃度はこれらを的確に反映する指標となり得ることが示唆された.