家畜繁殖研究會誌
Print ISSN : 0453-0551
過排卵処置マウスにおける排卵数と着床数の関係
伊藤 雅夫樋口 勝啓佐久間 勇次猪 貴義
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1974 年 19 巻 4 号 p. 153-159

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抄録

PMSとHCGを用いて成熟マウスに過排卵を誘起した場合の妊娠におよぼす過排卵処置の影響を明らかにする目的で,PMSおよびHCGの投与量と排卵数,着床数,胚の死亡率との関係を検討し,さらに,産子数を増加させることを目的とした場合のPMSおよびHCGの有効投与量を検討した。
1. 過排卵処置後(HCG投与後雄と交配)の排卵陽性率は60~100%で,PMSおよびHCGの投与量との間には特定の傾向はみられなかった。
平均排卵数はPMS 1IUでほぼ自然排卵数の11.7~14.3,PMS 5IUで19.0~25.4, PMS 101Uで29.6~41.0とPMS lIUから10IUの間でその平均排卵数は直線的に増加することが認められた。また,排卵数の増加はHCG併用量が高い場合において,より著しいことが認められた。
2. 過排卵処置後の妊娠率は57.6~92.4%であり,対照区の正常動物に比べて有意に低下することが認められ,とくにPMS 10IUにECGを併用した場合に著しく低下することが認められた。
平均着床数,生存胎児数は,HCGの併用量が0,1,5,10IUいずれの場合もPMS 51Uでもっとも高く13.7~21.6,12.6~17.3,と対照区の12.0,10.9を越える値を示したが,PMS 1,10IUではかえって対照区に劣ることが認められた。
生存率は38.2~92.4%で総体的に過排卵処置により低下すること,さらにPMS単用区においてはPMSの投与量が増加するにしたがって高くなり,HCG併用区では逆に低下する傾向が示された。
3. 過排卵処置後の平均排卵数と平均着床数から卵子の着床前の損失を推定すると,PMSの投与量が10IUで著しく高くなることが認められ,排卵数の約50%前後の卵子が失われることが示唆された。しかしPMSの投与量が5IUまでにおいては,排卵数と着床数の差は0.3~5.3で5IUまでのPMS投与が妊娠に及ぼす影響はさほど大きなものではないと思われた。
4. 以上の結果から,産子数を増加させることを目的とした過排卵処置において,PMSおよびHCGの有効投与量は排卵数は自然排卵数の1.6~2.1倍に達し,その後の妊娠率や着床数あるいは胎児の生存率なども比較的高く,過排卵処置の妊娠に及ぼす悪影響がさほど大きくないと思われるPMS 5IUにHCGを適当量(この場合1~10IU)併用するのがもっとも良いと推察された。

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