家畜繁殖学雑誌
Print ISSN : 0385-9932
ニホンシカCervus nippon(奈良公園)雄性副生殖腺の組織学的研究特に季節的変化について
山内 昭二鵜海 剛充矢口 幹人西谷 康信
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 29 巻 1 号 p. 32-38

詳細
抄録

雄ニホンシカ(奈良公園)の副生殖腺の生後発達の経過と季節的変化について組織学的研究を行った。本研究に用いられた雄鹿の区分と例数は次の通りである。1)新生仔鹿生後2ヵ月未満,1例。2)未成熟仔鹿2ヵ月齢から2歳未満,1例。3)成熟雄鹿2歳以上,14例。本研究で得られた結果は次の通りである。
1.精嚢腺では性成熟にかけて腺実質と筋層が発達する。同時に腺腔は拡張し,重量が増加する。非繁殖期の精嚢腺では腺腔は狭く,上皮は低い円柱状で,PAS陽性分泌物は不定形を呈する。また数例の精嚢腺の腺上皮には多数の空胞が見られた。一方,交尾期になると,重量が増加し,腺腔は拡張し,上皮は高くなり,またPAS陽性分泌物は球形または小滴状となる。
2.精管膨大部は個体の成熟にかけて腺腔は広くなり,分泌物が見られるようになる。腺の分布は密となり,毛細血管の分布もまた次第に密となる。上皮の高さについては生後の経時的な増大および季節的変化は明らかでなかった。成熟雄鹿のほとんどの精管膨大部の管腔には精子が存在し,特に交尾期のものには多数存在した。固有層に多数のリソパ球が見られるものがあり,これらは死んだ精子やそれらの崩壊産物などの排除に関係しているものと推察された。
3.前立腺の発達経過についてはほとんど明らかにすることができなかった。前立腺体部は独立の実質性組織として膀胱頸背面に認められ,この部から接続する腺組織は骨盤部尿道粘膜中で前立腺伝播部を形成する。伝播部は尿道の近位ではよく発達した腺組織をもち,遠位に進むにつれて腺の分布は少なくなる。近位の前立腺伝播部の終末部は尿道球腺に類似の特徴を示し,成熟雄鹿では強い季節的変動を示した。一方,体部では上皮の染色性において季節的な変動が見られた。

著者関連情報
© 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top