抄録
卵胞発育障害のホルスタイン種経産牛において子宮内へ,牛の外子宮口部より分離した未同定細菌を培養した濾液を注入した.その結果,数日中に卵胞が発育して,発情様挙動や頚管粘液の分泌等を呈するものがかなり見られ,エストロジェン分泌の増加が推察された.しかし,卵胞は充実感に乏しく,大きさも種々であり,正常発情時の成熟卵胞とは異なっていた.また,排卵や黄体化に至るものは認められなかった.なお,触知し得る卵胞が卵巣の表層にないのに,卵巣全体の容積が明らかに増大したが,どの部分が増大したかについては不明である.菌を培養していない培養基液のみを注入した場合には変化を認めなかった.これらのことから,卵巣には性機能を司る本来の機能以外に,細菌感染等に対する積極化的な防御体制や子宮内異物排出等にも都合のよい,エストロジェン優位の環境を作るための機能も兼備されていることが示唆された.