抄録
ラットの性周期黄体は、発情休止期2日目(D2)の午後に退行を開始する。これまでに我々は、この時期の黄体で、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)と、GnRH刺激で発現が増加する蛋白質であるアネキシン5(AX5)の発現が上昇し、黄体のアポトーシスに関与することを報告した。本研究では、GnRHの発現がD2に時期特異的に増加する機序を明らかにするために、視床下部でGnRHの分泌を促進することが知られているMetastinに着目してその関与を検討した。Wistar-Imamichi系雌ラットの性周期各時期の黄体を採取し、Real-time PCR法で、各種遺伝子の転写活性を測定したところ、黄体のMetastin転写活性は、発情前期の夜とD2の午前から午後にかけて有意に増加した。同じサンプルのGnRHとAX5のmRNAは、Metastin転写活性の上昇に遅れて、D2の午後から有意に増加した。D2におけるこれらの遺伝子の転写活性の増加は、発情期からのプロラクチン(PRL)投与(10 IU、1日2回)によって著しく抑制された。さらに、PRL投与で黄体を機能化したラットの卵巣嚢内にMetastinを局所投与すると、GnRH、AX5 mRNAの有意な増加がみられ、TUNEL法によるアポトーシス陽性細胞が検出された。このMetastinの黄体退行作用にGnRHが介在するか否かを検討するために、MetastinとともにCetrorelixを添加して黄体を培養したところ、GnRH、AX5 mRNAと、アポトーシス関連遺伝子であるFas、FasL mRNAの転写活性は著しく抑制された。黄体のMetastin転写活性は、Estradiolの添加によって、用量依存的に増加した。以上より、ラットの黄体でMetastinが発現しており、D2で発現が増加することで、黄体のGnRH、AX5の発現を促し、黄体細胞のアポトーシス開始に密接に関与することが示唆された。これらの遺伝子発現は、PRLによって抑制されることが明らかになった。また、Estrogenが濃度依存的にMetastinの転写活性を増加させたことから、D2にみられる卵胞発育によるEstrogenの上昇が、Metastinの発現を促進し、D2の時期特異的なGnRH発現の引き金になっている可能性が考えられた。